写ルンですはなぜZ世代に再ブームなのか、2倍に値上がりした今でも買う理由を考えた

2025年の春、写ルンですが値上がりした。希望小売価格は1,980円から2,860円へ、44%の引き上げだ。現像代を加えれば一回の使用コストはスマートフォンの比にならない。それでもメルカリでのフィルムカメラ取引は増えている。Z世代を中心に、わざわざ不便な道具を選ぶ人が増えている。なぜだろう。考えても、答えは一つには絞れなかった。

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写ルンです、静かにもう一度ブームが来た

写ルンですが発売されたのは1986年のことだ。富士フイルムが開発した使い捨てフィルムカメラで、フィルムを装填する手間なく誰でも写真を撮れる手軽さが売りだった。90年代には若者を中心にヒットし、プリクラや紙焼き写真とともに平成前半の青春を彩った道具の一つになった。当時の使い方は気軽そのものだった。友達と遊んだ帰りにコンビニへ持ち込み、1週間後に現像された写真を受け取るサイクルが当たり前だった。撮り直しなど考えない、その場の瞬間をそのまま切り取る道具だった。

デジタルカメラが普及した2000年代以降は需要が落ち込んだ。スマートフォンが当たり前になると、写ルンですを手に取る理由はさらに薄れた。撮ったその場で確認でき、何百枚でも保存でき、すぐにシェアできる道具が手の中にある状況で、わざわざ現像を待つ必要はない。そのまま静かに消えていくかと思われた商品が、ここにきて売れている。

富士フイルムの発表によれば、写ルンですの累計販売本数は2025年9月時点で17億本を突破した。2020年前後から販売ペースが上がっており、量販店では一時期品薄が続いた。棚に並ぶとすぐ売り切れるという状態が各地で報告されている。卒業旅行シーズンや夏フェスなど、Z世代が集まる時期には特に品薄感が強まるという声もある。フリマアプリでは未使用品の取引も活発で、入手難を補う形で二次流通が機能している。

メルカリが2026年4月に公表したデータによれば、フィルムカメラ関連の取引でZ世代の動きが活発化している。2026年3月の前月比は120.5%だった。写ルンですの中古品だけでなく、フィルム本体や使い捨てカメラ全体の取引が増えているという。卒業旅行やイベントシーズンに合わせて取引が増える傾向があり、需要の季節性も見えてきている。

一度衰退した商品が再び注目されるのは珍しいことではない。レコードやカセットテープも同様の流れをたどっている。ただし写ルンですの場合、値下がりして売れているわけではない。むしろ値上がりが続いているにもかかわらず、需要が落ちていない。

フィルムは2倍に値上がりした。それでも売れている

写ルンですの価格は、ここ数年で大きく変わった。

希望小売価格は2025年4月に1,980円から2,860円へと引き上げられた。44%の値上げだ。さらに遡れば、2020年頃には1,300〜1,500円前後で販売されていた時期もあり、現在の価格は当時の約2倍にあたる。理由は原材料費と物流コストの上昇で、包装材の紙箱化もコスト増に影響した。この傾向は写ルンですだけに限らない。35mmフィルム全体で価格が上がっており、フィルムカメラを趣味にしている人々の間ではコスト負担の増加が課題になっている。

撮影のトータルコストで考えると、状況はさらに厳しくなる。写ルンですで27枚撮り終えた後、現像してデータ化してもらうには追加で700〜1,200円程度かかるのが一般的だ。一回の使用で合計3,500〜4,000円近い出費になる。スマートフォンで何千枚撮っても追加費用がかからないことと比べると、コスト面の差は歴然だ。Xには「写ルンですに3,000円以上かけるのは当然」「フィルム代をケチったら本末転倒」という投稿が並ぶ。買う動機がコストではなく体験である場合、価格への感度が下がるのかもしれない。

それでも売れているのはなぜか。

一つには、コストに対する感覚が通常の消費行動と異なる可能性がある。スマートフォンで撮影するのが日常の行為であるなら、写ルンですで撮ることは特別な行為に位置づけられる。コンサートや卒業旅行、友人との集まりに持参する道具として選ばれるとき、話は変わってくる。3,500円という金額も、体験のコストとして払える範囲に収まるのかもしれない。食事代や交通費と同じ括りで考えれば、値段の高さは問題にならない。

もう一つには、撮り直しができないという制約が逆に価値として機能している面がある。スマートフォンは何度でも撮り直せる。その結果、撮った写真のほとんどが端末の中に眠ったまま、見返されることなく消えていく。写ルンですは27枚しか撮れない。この有限性が、一枚一枚を意味のある写真にする。その一枚を人に渡せば、二つとない贈り物になる。

コストが上がっても需要が落ちないという現象は、通常の市場論理からすると矛盾している。ただし、その商品が消費されるものから体験に付随するものへと変化しているなら、価格感度が下がることは説明できる。写ルンですが今どういうカテゴリに属しているのか、そこを考えると少し見えてくるものがある。

チェキでも同じことが起きている

写ルンですと似た現象が、チェキでも起きている。チェキは富士フイルムのインスタントカメラブランドで、撮影した写真がその場でプリントとして出てくる。デジタル加工のない、ぶれることもある、ピントが甘いこともある一枚が手元に残る。この不完全さが支持されている。

富士フイルムの発表では、instaxシリーズの累計販売台数が2025年に1億台を突破した。1998年の発売から約27年をかけての到達だが、近年の伸びは顕著だ。売上の約9割が海外向けという点も特徴で、グローバルなZ世代に広く受け入れられていることがわかる。国内市場と海外市場で同時に需要が拡大しているという点は、写ルンですにはない特徴だ。チェキは日本発のプロダクトとして、海外の若者文化にも定着しつつある。

国内では推し活との結びつきが強まっている。アイドルやアーティストのイベントで行われるチェキ会では、ファンとアーティストが一緒にチェキを撮り、その一枚を手渡しで受け取る。手渡しという行為そのものが価値を持つ。その一枚はデジタルのデータではなく、物理的な形として手元に残る。壁に貼ることもできるし、財布に入れることもできる。チェキのプリントは名刺サイズ程度だ。手の中に収まるコンパクトさが、日常に溶け込みやすい。多くの場合、その写真はSNSにも投稿される。物体として保管しながらデジタルでも共有するという二段構えが、チェキならではの使われ方だ。

メルカリのデータでも、インスタントカメラの取引は2021年比で約2.3倍に達している。本体だけでなく関連フィルムや中古フィルムカメラ全体が二次流通市場で活発に動いており、Z世代が出品・購入の両面で関わっている。チェキのフィルム代も値上がりが続いている。それでも取引が増えているという意味では、写ルンですと構造が似ている。コストが上がっても選ばれる現象が、アナログカメラ全体で起きている。

なぜZ世代はアナログを選ぶのか

理由として語られることはいくつかある。代表的なものを並べてみる。

まず映え疲れ説がある。インスタグラムを中心に、きれいに撮って加工してシェアする文化が一定の飽和点に達し、そこから外れた場所に向かう動きが出てきたという見方だ。写ルンですで撮った粗い写真をあえてそのままシェアすることが、本物っぽさの演出になるという側面もある。完璧な写真を投稿し続けることへの疲弊が、不完全さへの需要を生んでいるとすれば筋は通る。ただし、これはSNSをやめるという選択ではなく、SNSに投稿する写真の種類が変わるという話だ。アナログ写真もシェアされる。その点では、SNS離れとはまた違う動きだ。

次に偶然性の価値説がある。スマートフォンは撮り直しが前提の道具だが、フィルムカメラは一回しかシャッターを切れない。ぶれてもいい、光が入ってもいい、その偶発的な結果を受け入れる行為が、デジタルの精密さへの反動として機能しているという考え方だ。結果をコントロールしない撮影体験は、スマートフォンでは再現できない。

不便さ消費という言葉も使われる。効率的でない道具をあえて選ぶ行為に、儀式的な意味を見出すという消費スタイルだ。レコードを再生するためにターンテーブルの針を落とす行為や、手書きで手帳を書くことへの回帰とも共通している。手間がかかるからこそ、その行為に意味が生まれるという逆説的な価値観だ。写ルンですで撮影し、現像所に出し、データを受け取るまでの時間的な間隔も、この儀式性の一部かもしれない。レコードも同様で、手軽にストリーミングで聴ける時代に、わざわざ盤を買ってターンテーブルを動かす世代が出てきている。

韓国アイドル文化の影響を挙げる見方もある。K-POPのアーティストがSNSやMVでフィルム写真を使うことが多く、フィルム写真への関心が高まったという経路だ。チェキ会の文化自体、アイドル文化と切り離せない側面がある。海外アイドル文化を通じてフィルム写真に親しんだZ世代が、写ルンですへと興味を広げるという流れも自然に起きている。

親世代への逆ノスタルジアという見方をする研究者もいる。Z世代自身はフィルムカメラをリアルタイムで経験していない。そのため、ノスタルジーではなく今と違うものとして新鮮に受け取れるという考え方だ。親世代が感じる懐かしさとは質的に異なる。知らなかったものへの好奇心として接しているとすれば、ブームの持続性についての見方も変わってくる。

どれも一定の説得力がある。ただし、これらは互いに矛盾しない。複数の理由が重なって選ばれているという現象が起きているのかもしれない。

答えは一つではない、だからこそ面白い

写ルンですがなぜ今売れているのかについて、いくつかの説を並べてみたが、これが理由だと断定できるものは一つもなかった。

そもそも消費行動には、当事者自身が言語化できていない部分が多い。写ルンですを買ったZ世代になぜ買ったのかと聞けば、なんとなく、エモいからという答えが返ってくることも多いはずだ。感覚的な選択を後から言語化するのは難しい。消費した理由を説明できる人は、実はそれほど多くない。

一方で、この現象が単なるブームで終わらないとすれば、その理由はどこにあるのだろう。写ルンですを使うZ世代は、親世代の道具に戻っているのではない。今の感性に合う新しい使い方を見つけているのかもしれない。90年代のように友達と気軽に使うというよりも、意味のある瞬間にだけ使うという選び方になっている。コストが上がったからこそ、使う場面が自然と選ばれるようになった。それは道具の価値が変わったとも言えるし、使う側の意識が変わったとも言える。

値上がりしても売れているという事実は残る。メルカリの取引が増えているという数字も残る。何かがそこに人を引き寄せている。

気になるのは、写ルンですに限らず、アナログ的なものへの関心が複数の分野で同時に起きているという点だ。レコード、カセットテープ、手書き手帳、フィルム映画。共通点を探すと、有限であること、物質として手元に残ること、再現不可能であることという要素が浮かび上がる。デジタルが解決しようとしてきた問題の逆を、あえて選ぶ動きとも言える。無限にコピーできる時代に、あえて一枚しか存在しない写真を選ぶというのは、その象徴的な行為だ。デジタルの便利さを十分に知っているからこそ、あえて不便を選べるという側面もある。

それがデジタル疲労なのか、新しい消費価値観なのか、一過性のブームなのかは、まだわからない。Z世代が10年後に何を撮っているかを見ないと、今起きていることの意味は判断しにくい。写ルンですの値上がりが続くかどうかも、フィルムの供給がどうなるかも、不確かだ。ただ、2倍に値上がりしても買い続ける人がいる間は、この現象は続くだろう。

なぜ選ばれるのか。考えながら書いたが、結論は出なかった。答えが出なかったということ自体が、この現象の面白さを表している気がする。

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橙咲 華のアバター 橙咲 華 トウサキ ハナ

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日韓ハーフ15歳
Kカルチャー&謎を解説
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