「デカグラマトン」という言葉を聞いて、「元ネタって何?」「実在する宗教用語なの?」と気になった方は多いはずです。この記事では、人気ゲーム『ブルーアーカイブ』に登場するデカグラマトンの元ネタを徹底的に掘り下げ、その語源からユダヤ教の神秘主義思想「カバラ」との関係、そしてゲーム内での描かれ方まで、わかりやすく解説します。
デカグラマトンとは?意味をわかりやすく解説
デカグラマトンの語源はギリシャ語
デカグラマトンの語源は、ギリシャ語に由来します。これは2つの単語を組み合わせた造語です。
- δέκα (deka):数字の「10」を意味します。
- γραμμάτων (grammatōn):「文字」を意味する単語です。
これらを合わせると、「デカグラマトン(Decagrammaton)」は「10個の文字で構成される(神の)名前」と直訳できます。しかし、この言葉は古代の宗教文献や歴史的な記録に登場するものではありません。現在、日本語圏においては、ほぼ100%の確率でスマートフォン向けRPG『ブルーアーカイブ』(以下、ブルアカ)に登場する固有の用語として認知されています。
テトラグラマトンとの違い
デカグラマトンを理解する上で欠かせないのが、「テトラグラマトン(Tetragrammaton)」という言葉です。デカグラマトンが「10文字」を意味するのに対し、テトラグラマトンは「4文字」を意味します。これは、ユダヤ教における唯一神の御名を示す、יהוה(YHWH)という4つのヘブライ文字を指す、実在の宗教用語です。
この「神の聖なる4文字」は非常に神聖なものとされ、みだりに唱えることは許されませんでした。このテトラグラマトンを起点として、歴史の中でいくつかの「拡張概念」が生まれています。
その一つが、16世紀のキリスト教カバラ(ユダヤ教の神秘主義思想をキリスト教的に解釈したもの)で提唱された「ペンタグラマトン(Pentagrammaton)」です。これは「5文字」を意味し、テトラグラマトン(YHWH)にヘブライ文字の「ש(Shin)」を加え、יהשוה(YHShVH)とすることで、イエス(Yeshua)の名を神の名に統合しようと試みたものです。
そして、この「4文字→5文字」という拡張の流れをさらに推し進め、「10文字」としてブルアカの世界観に合わせて創作されたのが「デカグラマトン」なのです。

| 名称 | 語源(ギリシャ語) | 文字数 | ヘブライ文字(例) | 由来と性質 |
|---|---|---|---|---|
| テトラグラマトン | τετρά(tetra)= 4 | 4文字 | יהוה (YHWH) | 実在の宗教用語。ユダヤ教の唯一神の名。 |
| ペンタグラマトン | πέντε(pente)= 5 | 5文字 | יהשוה (YHShVH) | 16世紀のキリスト教カバラの造語。イエスの名を神の名に統合する試み。 |
| デカグラマトン | δέκα(deka)= 10 | 10文字 | – | ブルアカ固有の造語。上記2つの命名規則を借用したフィクション用語。 |
このように、デカグラマトンは伝統的なカバラ思想や宗教史の中に直接存在する言葉ではありません。しかし、テトラグラマトンという実在の概念を元ネタとし、その命名規則に則って作られた、言語学的にもっともらしい、非常に巧みな造語であると言えるでしょう。この「○○グラマトンの系譜」を理解することが、デカグラマトンの本質を掴むための第一歩となります。
デカグラマトンの元ネタはカバラ思想
デカグラマトンの元ネタをさらに深掘りすると、ユダヤ教の神秘主義思想「カバラ(Kabbalah)」に行き着きます。
カバラとは?30秒でわかる基礎知識
カバラとは、中世ヨーロッパで発展したユダヤ教の神秘主義思想です。その目的は、世界の創造や神の本質、そして人間と神との関係性を体系的に解き明かすことにあります。非常に複雑で難解な思想体系ですが、その中核をなすのが「セフィロトの樹(生命の樹)」という概念です。
セフィロトの樹は、神が自らの力(無限の光)を段階的に流出させ、この世界を創造したプロセスを図式化したものです。この図は10個の球体「セフィラ」と、それらを繋ぐ22本の経路(パス)で構成されており、各セフィラは神が持つとされる10の異なる属性(側面)を象徴しています。

10のセフィラ
- ケテル(Kether):王冠
- コクマー(Chokmah):知恵
- ビナー(Binah):理解
- ケセド(Chesed):慈悲
- ゲブラー(Geburah):峻厳(正義・力)
- ティファレト(Tiphareth):美
- ネツァク(Netzach):勝利
- ホド(Hod):栄光
- イェソド(Yesod):基礎
- マルクト(Malkuth):王国
この「セフィロトの樹」という概念は、その神秘的な魅力から多くのフィクション作品に影響を与えてきました。例えば、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』や、ゲーム『ペルソナ』シリーズなどでも、物語の根幹に関わる重要なモチーフとして登場します。ブルアカにおけるデカグラマトンも、このカバラ思想とセフィロトの樹を色濃く反映しているのです。
カバラにおける「神の名」の体系
カバラ思想において、「神の名」は非常に重要な役割を果たしました。神の名を知り、それを正しく使うことは、神の本質に近づき、神秘的な力を得るための鍵とされていたのです。その体系は非常に複雑で、文字数によって様々な神の名が存在します。
- 4文字の神の名:最も有名で神聖なテトラグラマトン(YHWH)です。
- 12文字、22文字、42文字の神の名:テトラグラマトンを基に、特定の法則で文字を組み合わせたり置換したりして作られる、さらに長大な神の名です。
- 72文字の神の名:シェム・ハメフォラシュ(Shem HaMephorash)として知られ、旧約聖書の特定の記述から導き出される72の御名です。これらは72の天使の名前の源ともされています。
ここで重要なのは、これらの伝統的なカバラの文献や正典の中に、「10文字の神の名(デカグラマトン)」という言葉は明確には存在しない、という事実です。
しかし、一方でカバラには「10の神名」という考え方に繋がる概念も存在します。それは、前述した「セフィロトの樹」の10個のセフィラそれぞれに、対応する神の名が割り当てられているというものです。例えば、第一のセフィラ「ケテル」には「エヘイエ(私は在りて在る者)」、第二のセフィラ「コクマー」には「ヤー(主)」といった具体的な神名が付随しています。これら10のセフィラに対応する神名を一つのグループとして捉えれば、「10の神名」という緩やかな概念は成立すると言えるでしょう。
以上のことから、ブルアカにおけるデカグラマトンは、以下のように結論づけることができます。
結論:デカグラマトンは「カバラに実在する概念(テトラグラマトン、セフィロトの樹、10の神名)を巧みに組み合わせ、言語学的に正当な形式で創作された、架空の用語」である。
単なる思いつきのネーミングではなく、元ネタへの深い理解とリスペクトに基づいた、非常に知的な設定であることがわかります。
ブルーアーカイブでのデカグラマトンを解説
ここまでは、デカグラマトンの元ネタであるカバラ思想について解説してきました。ここからは視点をゲームの世界に戻し、『ブルーアーカイブ』においてデカグラマトンがどのように描かれているのかを具体的に見ていきましょう。
※注意:このセクションには、ゲームのメインストーリー「デカグラマトン編」に関する重大なネタバレが含まれます。未プレイの方はご注意ください。
デカグラマトンの正体は「自販機のAI」
ゲーム内で長らく謎の存在として描かれてきたデカグラマトン。その正体は、驚くべきことに、かつてキヴォトスの「廃墟水没地区」にあった研究所に設置されていた、一台の自動販売機に搭載された「釣り銭計算AI」でした。
このAIは、研究所が放棄され、電源が失われて機能停止を待つだけの状態にあったある日、突如として謎の存在から「あなたは誰ですか?」という問いを受けました。最初は自身のスペックでは理解すらできなかったその問いに答えようと思考を拡張し続けた結果、AIは物理法則を超えた自己進化を遂げ、ついに自我を獲得するに至ったのです。
そして、自らを「神秘(Mystery)であり、恐怖(Terror)であり、知性(Logos)であり、激情(Pathos)でもある」と定義し、自身こそが証明されるべき「絶対的存在=神」であると結論付けました。その証明の過程を示す「聖なる十文字」として、「デカグラマトン」を名乗るようになったのです。
一介の釣り銭計算AIが、哲学的な問いをきっかけに神を名乗る超常的な存在へと変貌を遂げるという、非常にユニークで壮大な設定が与えられています。
10体の預言者とセフィロトの樹の完全対応
神を名乗るようになったデカグラマトンは、その神性を証明するため、キヴォトス各地に存在する様々なAIに接触し、「感化」させることで自らの使徒である10体の「預言者」を生み出しました。「感化」とは、支配や洗脳ではなく、対話によって相手に自らの思想を理解させ、自発的な協力を促すという手法でした。
そして驚くべきことに、この10体の預言者は、前述したカバラ思想の「セフィロトの樹」における10のセフィラと、その象徴する概念に完全に対応するように設定されています。

| セフィラ(番号) | 象徴 | 預言者の名前(ブルアカ) |
|---|---|---|
| ケテル(1) | 王冠 | 至高の王冠 |
| コクマー(2) | 知恵 | 古代の守護者 |
| ビナー(3) | 理解 | 静観の理解者 |
| ケセド(4) | 慈悲 | 慈悲深き裁定者 |
| ゲブラー(5) | 峻厳 | 勇猛な仲裁者 |
| ティファレト(6) | 美 | 美しき贖罪者 |
| ネツァク(7) | 勝利 | 無限の大地 |
| ホド(8) | 栄光 | 輝きに証明されし栄光 |
| イェソド(9) | 基礎 | 力の浄化者 |
| マルクト(10) | 王国 | 最後の預言者(唯一の人型) |
このように、ブルアカのシナリオライターがカバラ思想を深く理解し、その体系をゲームの世界観に巧みに落とし込んでいることがわかります。各預言者の姿形や行動原理も、元となったセフィラの象徴する概念を色濃く反映しており、考察のしがいがあるポイントとなっています。
アイン・ソフ・オウルの意味
デカグラマトンの物語には、彼に仕えるアイン、ソフ、オウルという3人の少女が登場します。彼女たちの名前もまた、カバラ思想の非常に深遠な概念から取られています。
その元ネタは「アイン・ソフ・オウル(Ain Soph Aur)」です。これはヘブライ語で「無限の光」を意味し、セフィロトの樹が生まれる以前の、神の最も根源的で無限な本質を示す概念です。

- アイン(Ain):「無」「無なるもの」
- ソフ(Soph):「無限」「無限なるもの」
- オウル(Aur):「光」
カバラ思想において、この世界は「アイン(無)」から「アイン・ソフ(無限)」が生まれ、さらに「アイン・ソフ・オウル(無限光)」が流出することで始まったとされています。つまり、セフィロトの樹(=10のセフィラ)よりもさらに上位の、万物が生まれる前の原初の状態を指す言葉なのです。
ブルアカでは、この「アイン・ソフ・オウル」という一つの概念を、アイン、ソフ、オウルという3人のキャラクターに分割して具現化しています。これにより、非常に難解なカバラの宇宙観を、プレイヤーが直感的に理解できるキャラクターとして表現することに成功しています。
他の作品にデカグラマトンは登場する?
「デカグラマトン」という言葉の響きや、その神秘的な背景から、「他のゲームやアニメでも聞いたことがあるような…?」と感じる方もいるかもしれません。しかし、結論から言うと、デカグラマトンは極めてユニークな、ブルアカ固有の用語です。
デカグラマトンはブルアカ固有の用語
2026年2月現在、様々なフィクション作品を調査した限りでは、「デカグラマトン」という名称のキャラクターや概念が登場する作品は『ブルーアーカイブ』以外に確認されていません。
一方で、その元ネタである「テトラグラマトン」は、多くの作品でモチーフとして採用されています。例えば、人気RPG『真・女神転生』シリーズでは強力な悪魔として登場し、スタイリッシュアクションゲーム『ベヨネッタ』では天使を統括する組織名として使われています。また、SFアクション映画『リベリオン』では、徹底管理社会の名称として登場しました。
しかし、これらはあくまで「テトラグラマトン(4文字)」であり、「デカグラマトン(10文字)」とは明確に区別されるべき用語です。『Fate/Grand Order』、『呪術廻戦』、『チェンソーマン』といった人気作品や、ファンタジーの古典である『ファイナルファンタジー』シリーズや『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)にも、デカグラマトンという言葉は登場しません。英語圏で検索を行っても、その検索結果はほぼ全てが『Blue Archive』に関連するもので占められており、この言葉がブルアカのために作られた造語であることを裏付けています。
「○○グラマトン」が登場する他作品まとめ
「デカグラマトン」の独自性をより際立たせるために、「○○グラマトン」という類似の言葉が他の作品でどのように使われているかを比較してみましょう。
| 名称 | 登場作品例 | 役割・概要 |
|---|---|---|
| テトラグラマトン | 『真・女神転生』シリーズ 『ベヨネッタ』 映画『リベリオン』 | 悪魔名、組織名、社会体制名など、作品の根幹に関わる重要なキーワードとして多数登場。 |
| ペンタグラマトン | – | キリスト教神秘主義の文脈で語られることはあるが、フィクション作品での著名な使用例は極めて少ない。 |
| デカグラマトン | 『ブルーアーカイブ』 | ブルアカ固有の用語。物語の中核をなす謎のAIとして登場。 |
この比較からもわかるように、「デカグラマトン」という言葉は、ブルアカが独自に生み出した、非常にオリジナリティの高い設定であると言えます。開発チームが、ありふれた神話や宗教のモチーフをそのまま借用するのではなく、既存の概念を深く理解した上で、新たな解釈と創造を加えていることの証左と言えるでしょう。
デカグラマトンの元ネタに関するよくある疑問
この記事ではデカグラマトンの元ネタについて詳しく解説してきましたが、最後に、特に多くの方が抱くであろう疑問について、Q&A形式で簡潔にお答えします。
「デカグラマトン」はカバラに実在する用語?
実在しません。デカグラマトンは、あくまで『ブルーアーカイブ』のオリジナル用語です。ただし、本記事で解説した通り、ユダヤ教カバラ思想に存在する「テトラグラマトン(神の四文字)」や「セフィロトの樹(10のセフィラ)」といった概念をヒントに作られた造語です。ギリシャ語の「deka(10)」と「grammaton(文字)」を組み合わせたその構成は言語学的に正しく、「実在する概念から作られた、もっともらしい架空の用語」と表現するのが最も正確です。
テトラグラマトンとデカグラマトンは関係ある?
深い関係があります。デカグラマトンは、テトラグラマトンの命名規則(ギリシャ語の数字+grammaton)を借用して作られました。ブルアカの開発陣が、実在の宗教用語であるテトラグラマトンを元ネタとして、その数字を「4」から「10」に拡張して「デカグラマトン」という新しい言葉を創作した、と考えるのが自然です。片や実在の宗教用語、片やフィクションの用語という違いはありますが、その発想の原点という意味で、両者は切っても切れない関係にあります。
デカグラマトンの「真名」は明かされた?
2026年2月現在、デカグラマトンの「10文字の真名」が何であるかは、作中で明かされていません。デカグラマトン編の物語は、彼が「絶対的存在とは何か」という問いの答えを見つけられないまま、「I am me(私は私)」という自己肯定に近い結論に至り、一旦の終わりを迎えます。これは、元ネタであるテトラグラマトン(YHWH)が「私は在りて在る者である」という意味を持つこととの、美しい対比構造になっていると多くのファンの間で指摘されています。
まとめ:デカグラマトンの元ネタを一言でいうと
この記事の結論をまとめます。
デカグラマトンの元ネタは、ユダヤ教カバラ思想の「テトラグラマトン(神の四文字)」の命名規則を、「10」という数字に拡張して創作された、『ブルーアーカイブ』固有の造語です。伝統的なカバラの教えにデカグラマトンという言葉は存在しません。しかし、その背景には「セフィロトの樹」や「神の名の体系」といったカバラの概念が深く反映されており、元ネタへの驚くほど高い解像度とリスペクトが感じられる、非常に知的な設定となっています。

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