データセンターはなぜ住宅街に建つのか──日野・白井・印西・さいたまで起きていること

JR宮原駅(さいたま市北区)から歩いて数分の住宅街に、2024年から巨大な建物がそびえ立っている。地上6階建て、高さ約47メートル。窓はほとんどなく、外壁は無機質なグレーだ。敷地に並ぶのは人の背丈を超える非常用発電機。隣接マンションに住む70代男性は、排熱や騒音への不安を何度も事業者に伝えたが、返ってきたのはいつも決まった言葉だったと語る。「設計中でわからない」「弁護士が対応する」。

これはデータセンターだ。そして同じ光景が、東京都日野市でも、千葉県白井市でも、印西市でも起きている。2026年5月、読売新聞がこの問題を報じた記事は、Yahoo!ニュースのコメントランキングで約2,200件を集めて1位になった。なぜデータセンターは住宅街に建つのか。なぜ住民は止められないのか。

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4つの現場で起きていること

さいたま市北区では、オーストラリアのLendleaseとシンガポールのPrinceton Digital Group(PDG)が共同開発したデータセンターキャンパスが2024年に稼働を始めた。最大受電容量96MW、敷地面積約3.3ヘクタール、延床面積6万平方メートル超──日本最大級とされる施設だ。建てられた場所は自動車部品メーカーの工場跡地で、隣接マンションの住民への説明会は一度も開かれないまま工事が進んだ。

東京都日野市では、三井不動産がJR日野駅前の日野自動車工場跡地(約11.4万平方メートル)にデータセンター3棟を計画している。最高高さ72メートル、完成は2031年2月の予定だ。市内で最も高い既存建築物の倍近い規模の建物が、住宅密集地の隣に立つ。住民団体が集めた署名は約7,600人分に上り、2026年1月には行政不服審査請求が提出された。

千葉県白井市では、元梨園だった市街化調整区域(約13.2ヘクタール)に高さ約40メートルの施設が建設中だ。7階建てマンションの目の前での建設計画を問題視した住民側の弁護士が、用途制限違反と裁量権の逸脱を主張して2026年1月に千葉地裁へ提訴した。

千葉県印西市では、千葉ニュータウン中央駅前に高さ約53メートルの施設が計画されている。駅から徒歩5分、イオンモール隣接の一等地だ。2026年3月、近隣住民10人が建築確認の取消を求めて千葉地裁に提訴した。市議会は駅周辺への新設制限を求める決議を全会一致で可決しており、地区計画の見直しも動き始めている。

4つの現場に共通するのは、住民が突然知らされたという感覚だ。複数の報道に「えたいが知れないもの」という言葉が登場する。巨大で、窓が少なく、何をしているのかわからない建物。それがある日、静かに自分たちの町に姿を現す。

「事務所扱い」という法律の構造

なぜデータセンターは住宅街に建てられるのか。最初の答えは法律にある。

データセンターは建築基準法上、「事務所」に分類されることが多い。この分類が決定的な意味を持つ。「工場」や「倉庫」は住居系の用途地域では厳しく規制されているが、「事務所」は第一種住居地域でも床面積3,000平方メートル以下なら建築できる。商業系や工業系の用途地域であれば、ほぼ制限なく建てられる仕組みだ。

問題は、データセンターの実態が「事務所」とかけ離れていることだ。24時間365日稼働する大型空調と冷却設備、大量の非常用発電機、重油タンク──そのどれもが、いわゆる事務所とは別物の設備だ。白井市の訴訟では住民側が「実態は工場または倉庫に当たる」と主張している。印西市の訴訟でも同様の争点が核心に置かれた。専門家は「法制度が施設の巨大化に追いついていない」と表現する。建築基準法が制定された1950年当時、サーバーを大量に積み上げた6階建ての「事務所」は想定されていなかった。

もう一つの問題が、環境影響評価(環境アセスメント)の対象外であることだ。環境影響評価法が定める13の事業種(道路、ダム、発電所など)にデータセンターは含まれていない。事前の環境調査義務がなく、排熱や騒音の実測データを公開する法的義務もない。三井不動産は日野市の住民に、電力使用量やCO2排出量は守秘性の観点から提示できないと説明した。住民が何も知らされないまま工事が進む構造が、制度として埋め込まれている。

住民への事前説明義務もない。建築確認は法令に適合しているかの審査であり、住民の同意は要件ではない。自治体の任意条例で説明会開催が求められることはあっても、強制力はない。東京都は2026年3月にガイドラインを策定したが、義務ではなく協力ベースだ。法令を守っているのに、なぜ止められないのか。現行法に、その問いへの答えはない。

なぜ住宅街なのか──電力と通信の地政学

郊外や地方に建てればいいという声をよく聞く。しかし事業者にとって、それは現実的な選択肢になりにくい。

データセンターが都市近郊を選ぶ最大の理由は電力インフラだ。大規模施設には特別高圧(66キロボルト以上)の受電が必要で、既存の特別高圧変電所に近接していることが絶対条件になる。さいたま市のPDGキャンパス(96MW)は一般家庭換算で数万世帯分の電力を消費する。印西市ではデータセンターのために新たな超高圧変電所が新設されるほどで、この規模の電力需要は都市部の既存インフラなしには成り立たない。

もう一つの理由は通信の遅延(レイテンシ)だ。AI推論やクラウドサービスでは、サーバーとユーザーの物理的距離が応答速度に直結する。東京都心のオフィスや金融機関からの近さ、既存の基幹光ファイバー網への接続点の集中──これらが首都圏を最優先の立地にさせる。電力中央研究所の2025年の推計では、2034年のデータセンター電力需要の62%が東京エリアに集中するとされている。

需要が急増している背景にはAIの普及がある。電力広域的運営推進機関(OCCTO)の2025年度推計では、データセンターの新増設による2034年度の電力需要増は全国で年間約440億キロワット時とされている。一般家庭に換算すると約1,100万世帯分に相当する規模だ。生成AIの普及が加速するほど施設の需要は増え、その「適地」の多くは既存インフラが整った都市近郊──つまり住宅地の隣と重なっていく。

自治体が止められない理由──税収という縛り

住民が声を上げても、自治体が動きにくい構造がある。

印西市はその典型だ。千葉ニュータウン中央駅周辺にデータセンターが集積した結果、同市の地方税収入における固定資産税の割合は5割を超えた。その増加分の多くがデータセンター由来とされる。市の財政力指数は1.04と、全国平均の約2倍に達している。市の担当者はこう話す。雇用創出にはあまりつながらないが、桁違いに増えた固定資産税を教育や子育て、インフラ整備の財源に充てることができている、と。

この財政的な依存関係が、首長の判断を縛る。印西市の藤代健吾市長は当初、この場所にふさわしい施設はデータセンターではないとSNSに投稿していた。しかしその後の取材では、これ以上事業計画を遅らせることには理由がない、白紙撤回させることはやはり難しいと述べた。

法的にも同じ構造がある。建築確認は「法令に適合していれば交付しなければならない」という羈束(きそく)行為だ。行政の裁量が入り込む余地はほとんどない。建物が建築基準法や地区計画に違反していない限り、自治体は確認を拒否できない。住民がどれだけ反対しても、法令さえ満たされていれば行政に止める手段はない。法令を守っているのに、なぜ止められないのか──その問いへの答えは、制度の側にある。

世界はすでに動き始めている

日本が手をこまねいている間に、海外では異なる動きが起きている。

アイルランドでは、データセンターが国全体の電力消費の21%(2023年時点)を占め、国営の電力規制機関が首都ダブリン圏での新規接続を事実上停止した。IEAの予測では2026年に32%に達するとされ、大手企業はすでにアイルランドへの投資を縮小し始めている。オランダのアムステルダム市議会は2022年、電力・土地不足を理由に新設を一時停止した。シンガポールは2019年から3年間のモラトリアムを実施し、解除後も電力効率の厳格な基準を課している。

これらの規制は、電力グリッドへの負担と住民・環境団体の反発が組み合わさって生まれた。インフラとして必要なのはわかっている、しかしこのまま野放しにはできない──そうした社会的合意が制度化を後押しした。

日本はどうか。東京都のガイドラインは2026年3月に策定されたが、強制力はない。国レベルでの法整備は検討中のまま進んでいない。一橋大学名誉教授の寺西俊一氏を座長とする「都市型データセンターあり方検討会」が2025年9月に発足し、東京・千葉・埼玉3都県の住民と有識者による議論が始まった。しかし法的な拘束力を持つ提言にはまだ至っていない。

答えの出ない問い

日野市の市民の会事務局長(71)は、都市部のデータセンターを新しい公害として大問題になりつつあると訴える。印西市の住民団体はこう記した。本来、駅前の賑わいを作るべき場所に、誰からも望まれない建物が立ち並ぶ未来は避けたい、と。

一方で、データセンターがなければAIもクラウドも成り立たない。私たちが日常的に使うスマートフォン、検索、動画、チャットボット──そのすべてが、どこかの施設で処理されている。電力を大量に消費し、熱を吐き出しながら24時間動き続けるサーバーの集積体が、誰かの住む街の近くに必ずある。

この問題が厄介なのは、誰かが悪いわけではないことだ。事業者は法令を守っている。自治体は税収を確保しようとしている。住民は生活環境を守ろうとしている。国はデジタルインフラを整備しようとしている。それぞれの立場に正当性があり、それぞれが正面からぶつかっている。

白井市と印西市の訴訟は、データセンターは工場か事務所かという用途分類の問いを司法に投げかけた。判決の行方によっては、全国の建設計画に影響が及ぶ可能性がある。法制度がどう変わるか、自治体がどこまで独自規制を広げられるか。その答えはまだ出ていない。

答えが出ないまま、今日もどこかで建設は進んでいる。

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橙咲 華のアバター 橙咲 華 トウサキ ハナ

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Kカルチャー&謎を解説
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