猫にエジプト音楽を聞かせると神の記憶を思い出す?元ネタと科学的な真実

「猫にエジプトの音楽を聴かせると、神だった頃の記憶を思い出す——」

そんな不思議なジョークが、X(旧Twitter)やTikTokといったSNSで静かなブームを呼んでいます。半信半疑で愛猫にエジプト風の音楽を聞かせてみると、それまでくつろいでいた猫が、突然ぴんと背筋を伸ばし、遠くを見つめるような真剣な表情で音楽に聴き入る。そんな動画が次々と投稿され、「うちの子も神だったのかもしれない」と多くの飼い主を驚かせているのです。なぜ猫はエジプト音楽に反応するのでしょうか。そして、「神の記憶」は本当に存在するのでしょうか。答えのない問いを、すこし深掘りしてみましょう。

目次

猫にエジプト音楽を聞かせると何が起きる?

このミームの概要は至ってシンプルです。「猫がエジプト音楽に反応すると、神だった頃の記憶が蘇るらしい」というもの。実際に試した動画を見てみると、確かに多くの猫が音楽に耳を澄まし、厳かな表情を見せます。

日本でこのブームの火付け役となったのは、2026年2月13日にXユーザーの@sheepmandonuts(ドーナツてるの)さんが投稿した動画でした。「半信半疑で試したら真剣な食いつきを見せた」という趣旨の投稿は瞬く間に拡散され、Xのトレンドを賑わすほどの大きな注目を集めたのです。

この投稿をきっかけに、日本語圏では様々な反応が生まれました。大きく分けると、以下の3つのタイプが見られます。

①「神を思い出した」系
最も多いのが、実際に愛猫が音楽に反応し、その様子を「神の記憶が蘇った」と解釈する投稿です。「キリッとしだした…ホントに神だったかもしれん」「威厳がすごい」といったコメントと共に、普段とは違う愛猫の神々しい(?)姿が共有されています。

②「無反応ネタ」系
一方で、「うちの神、寝てます」「エジプトは経由していないもよう」と、まったく反応を示さない愛猫の様子をユーモラスに報告する投稿も人気です。期待通りの反応が見られなくても、それを「ネタ」として楽しむ文化が生まれているのが面白い点です。

③考察系
さらに、一歩踏み込んで「なぜ反応するのか」を考察する動きも見られます。特に、キジトラ猫の毛柄が、家猫の祖先とされるリビアヤマネコに似ていることから、「古代エジプトの猫のルーツに近いからでは?」といった説が交わされています。

このように、単なるジョークとして楽しむだけでなく、愛猫の新たな一面を発見したり、そのルーツに思いを馳せたりと、多様な楽しみ方が生まれているのが、このミームの興味深いところです。

このミームはどこから来たのか〜2021年夏、ポルトガル発TikTok

日本で2026年に再燃したこのミームですが、その起源はさらに遡ります。始まりは2021年の夏、遠く離れたポルトガルでした。

2021年8月12日、ポルトガルのTikTokerである@juliusscesar氏が、中東の伝統的な葦笛「ネイ(Ney)」を演奏する動画を投稿しました。この動画自体は猫とは無関係でしたが、その物悲しくも美しい音色が、後のミームの土台となります。

その翌日、8月13日に、同じくポルトガルのTikTokerである@nathaliabbq氏が、「エジプトでは猫は神のように扱われていたので、彼らの笛の音を流してみた」というキャプションを付け、@juliusscesar氏のネイの音源を自身の飼い猫に聞かせる動画を投稿しました。これこそが、現在まで続く「猫 × エジプト音楽」ミームのテンプレートが誕生した瞬間でした。

この動画はポルトガル語圏で瞬く間に広がり、同月中には@beatrizriutooo氏の動画が約1500万回再生、@gatosivirino氏の動画が約1050万回再生を記録するなど、一大トレンドを形成します。

そして9月以降、ミームは英語圏へと拡大。@crazycris94氏が投稿した動画は2000万回以上再生される大ヒットとなり、動画の中で猫の目が光の反射で金色に輝く瞬間が「神々しい」と大きな話題を呼びました。

この世界的流行は、ミームやネットカルチャーを記録するウェブサイト「Know Your Meme」や、アメリカのニュース雑誌「Newsweek」(2021年9月14日付)でも報じられており、すでに公に記録されたトレンドとなっています。その後、2024年に第二波が訪れ、そして2026年2月に日本で再燃するという、波状的な拡散を続けているのです。

報道によれば、このテンプレートを使った動画はTikTok上で17万本以上も作成されているとのこと。ひとつのジョークが、国境や言語を超えて、いかに多くの人々を魅了してきたかがわかります。

なぜ「猫」と「エジプト」が結びつくのか〜バステト女神と4000年の歴史

そもそも、なぜ「猫」と「エジプト」はこれほど強く結びつけて語られるのでしょうか。その答えは、古代エジプトの神話と歴史の中にあります。

古代エジプトには、バステト(Bast)という女神が存在しました。彼女は保護、豊穣、そして音楽や舞踊を司る女神であり、太陽神ラーの娘とされています。そしてその姿は、猫の頭を持つ女性として描かれました。

バステト信仰の最古の記録は、紀元前約2890年の第2王朝時代にまで遡ります。サッカラで出土した銘文にその名が刻まれており、非常に古くから崇拝されていたことがわかります。

ここで重要なのは、バステトが手にシストルムと呼ばれる古代の打楽器を持っている点です。彼女が祀られた都市ブバスティスで開かれた大祭では、笛の演奏や歌、踊りが中心的な儀式でした。つまり、「猫の女神」と「音楽」は、古代エジプトにおいて、バステトという一つの神格の中で固く結びついていたのです。

この信仰を背景に、猫は神聖な動物として扱われました。家族の一員として大切にされ、もし死んでしまえば、家族は喪に服したといいます。また、神聖な動物である猫をエジプト国外へ持ち出すことは固く禁じられていました。

古代ギリシャの歴史家ディオドロス・シクルスは、その著書の中で「誤って猫を殺してしまったローマ人が、民衆によって死刑に処された」という衝撃的な記録を残しています。これは、当時の人々がいかに猫を神聖視していたかを示すエピソードです。

その信仰の深さは、エジプト全土で発見されている数百万体もの猫のミイラからも伺えます。特にサッカラにあるバステト女神の聖域「ブバステウム」では、数百体もの猫のミイラが発掘されました。しかし、歴史の皮肉というべきか、1890年にはベニ・ハサンで出土した約18万体の猫のミイラが、イギリスに輸出され、農業用の肥料として競売にかけられたという悲しい記録も残っています。

使われているのはどんな音楽?〜ネイフルートとは

ミームで使われている音楽は、一体どのようなものなのでしょうか。動画で頻繁に耳にするあの独特の音色は、ネイ(Ney)と呼ばれるフルートによるものです。

ネイは、4500年から5000年もの歴史を持つ、世界最古級の現役の楽器とされています。葦を材料とする単純な構造の端吹きフルートで、中東、北アフリカ、中央アジアといった広い地域で演奏されています。古代エジプトの壁画にも、ネイとよく似た形の楽器を演奏する人物が描かれており、その歴史の長さを物語っています。

音響的な特徴としては、基音域が約200Hzから2000Hzと比較的低く、豊かな倍音列を持つことによる「息混じりの、かすれたような音色」が挙げられます。この独特の響きが、古代へのロマンや、どこか物悲しい雰囲気を醸し出しているのです。

TikTokでミームのきっかけとなった音源は、前述の@juliusscesar氏が投稿した「som original – juliusscesar」ですが、その後「Ancient Egyptian Ney」といったキーワードで様々な音源が作られ、ミームの広がりと共に多様なバリエーションが生まれています。

なぜ猫は反応するのか〜科学的に見ると

さて、いよいよ本題です。なぜ猫は、ネイの音色にこれほどまでに惹きつけられるのでしょうか。科学的な観点から、いくつかの可能性を探ってみましょう。

まず考えられるのが、猫の驚異的な聴覚能力です。猫の可聴域は48Hzから85,000Hzにも及び、人間(約20Hz〜20,000Hz)をはるかに凌ぎます。特に高音域に強く、最高感度は8kHz(8,000Hz)付近にあるとされています。

ここで興味深いのが、猫の鳴き声の基本周波数(約200Hz〜1200Hz)と、ネイフルートの基音域(約200Hz〜2000Hz)がほぼ重なるという点です。つまり、猫にとってネイの音は、自分たちのコミュニケーションで使う声の音域に非常に近いため、注意を引きやすいのではないか、という仮説が立てられます。

実際に、猫がどのような音楽を好むかについての研究も存在します。2015年に学術誌「Applied Animal Behaviour Science」に掲載されたスノードン氏らの研究では、47匹の猫を対象に、人間向けのクラシック音楽と、猫の声域やテンポに合わせて作られた「猫向け音楽」を聞かせ、その反応を比較しました。結果、猫は人間向けの音楽よりも、自分たちの種に特異的な音楽に対して、有意に高い関心と肯定的な反応を示したのです。猫向け音楽に興味を示すまでの時間は平均110秒だったのに対し、人間向け音楽では171秒と、明らかに差が見られました。

この研究は、猫が自分たちのコミュニケーションに関連する音に対して、より強く惹きつけられることを示唆しています。

では、なぜエジプト音楽を聞いた猫は、まるでフリーズしたかのように固まってしまうのでしょうか。これは、「定位反応(Orienting Response)」と呼ばれる、動物が持つ本能的な行動で説明できるかもしれません。定位反応とは、予期しない音や光といった新しい刺激を感知した際に、一瞬動きを止め、感覚器(この場合は耳)を刺激の方向に向けて、何が起きたのかを確認しようとする行動です。猫にとってネイの「息混じりの音色」は、普段聞き慣れない未知の音です。そのため、「これは何だ?」と注意を集中し、音の正体を探るために固まっている、と考えるのが自然な解釈でしょう。

もちろん、選択バイアスの存在も忘れてはなりません。劇的な反応を見せた猫の動画はSNSで拡散されやすい一方で、まったく反応しなかった大多数の猫の動画は、投稿されることすら稀です。我々が目にするのは、そうしたバイラルヒットした「面白い動画」だけである、という側面は考慮すべきでしょう。

現時点では、ネイフルートの音と猫の反応を直接的に検証した査読付きの学術論文は存在しません。そのため、ここでの話はあくまで「〜という研究があります」「〜と考えられています」といった、いくつかの状況証拠を組み合わせた推論に過ぎないことをご理解ください。

結局、猫は「神の記憶」を思い出しているのか?

さて、様々な角度からこのミームを掘り下げてきました。結局のところ、猫は本当に「神の記憶」を思い出しているのでしょうか。

科学的に言えば、猫が前世の記憶を持つことを示す生物学的な証拠は、残念ながら存在しません。猫の不思議な反応は、本稿で見てきたように、彼らの優れた聴覚特性や、未知の音に対する本能的な「定位反応」で、ある程度説明することが可能です。

しかし、「記憶がない」と完全に言い切ることもまた、難しいのです。なぜなら、私たち人間には、猫が何を感じ、何を考えているのか、その内的体験を100%理解する術がないからです。彼らの頭の中で、ネイの音色がどのような情景を呼び覚ましているのか、それを知ることは誰にもできません。

確かなことは、バステト女神が音楽の女神でもあったという歴史的事実です。古代エジプトにおいて、猫と音楽が、同じ信仰の中で深く結びついていた。これは単なる偶然でしょうか。このミームが5年もの歳月をかけて、世界中で何度も再燃し続けているという事実。それ自体が、私たち人間が、猫という存在に対して抱き続けてきた、何か特別な感情の現れなのかもしれません。

答えのない問いを考えるのは、面白いものです。あなたの愛猫は、エジプト音楽にどんな反応を示すでしょうか。試してみてはいかがでしょうか。もしかしたら、あなたの知らない、神々しい一面を見せてくれるかもしれません。

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橙咲 華のアバター 橙咲 華 トウサキ ハナ

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Kカルチャー&謎を解説
所属:Loveforever
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