「ノンバイナリー」という言葉を、最近よく耳にするようになったと感じませんか?
2021年に歌手の宇多田ヒカルさんが自らをノンバイナリーであると公表し、大きな話題となりました。そして2025年12月、世界的に活躍するガールズグループXGのメンバーであるCOCONAさんも、20歳の誕生日にノンバイナリーであることを明らかにしました。彼女の勇気ある告白は、SNSを中心に多くの祝福と共感、そして「ノンバイナリーとは何?」という新たな関心を集めています。
「ノンバイナリーとは、簡単に言うとどういうこと?」
「宇多田ヒカルさんやCOCONAさんが言うノンバイナリーの意味は?」
「自分や周りの人がそうかもしれないと感じた時、どうすればいい?」
この記事では、こうした疑問に答えるため、「ノンバイナリー」という性のあり方について、あらゆる角度から深く、そして分かりやすく解説していきます。基本的な意味から、有名人の事例、SNSでのリアルな声、そして私たちが向き合うべき社会的な課題まで。この一つの記事で、ノンバイナリーに関する理解が深まることを目指します。
そもそも「ノンバイナリー」とは何か?
まず、「ノンバイナリーとは何か」という根本的な問いから始めましょう。この言葉を理解する鍵は、「バイナリー(binary)」という単語にあります。バイナリーとは「2つの要素から成る」という意味で、ジェンダーにおいては「男性か女性か」という二者択一の枠組み、すなわち性別二元論を指します。
ノンバイナリー(Non-binary)とは、この「男性/女性」という性別の二元論に当てはまらない性自認を持つ人々を指す、包括的な言葉です。
ノンバイナリージェンダー(nonbinary gender)とは、自分の性自認(=出生時に割り当てられた性別ではなく、自分で認識している自分の性)が男性・女性という性別のどちらにもはっきりと当てはまらない(または当てはめたくない)あり方を指す。「第三の性」「クィア」とも呼ばれる。
重要なのは、ノンバイナリーが一つの決まった「第三の性」を意味するわけではない、という点です。そのあり方は非常に多様で、人によってグラデーションがあります。
- 両性(バイジェンダー):男性と女性、両方の性自認を持つ。
- 中性:男性と女性の中間だと感じている。
- 無性(アジェンダー):特定の性自認を持たない。
- 不定性(ジェンダーフルイド):性自認が固定的ではなく、時や状況によって流動的に変化する。
- その他:上記のいずれにも当てはまらない、独自の性自認を持つ。
このように、ノンバイナリーは「男性でも女性でもない」という単純な否定形ではなく、性のあり方がいかに多様であるかを示す、豊かで広大な概念なのです。
ノンバイナリーと関連用語の違い
ノンバイナリーについて調べていると、似たような言葉がたくさん出てきて混乱することがあります。ここで、特に混同されやすい用語との違いを整理しておきましょう。
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| ノンバイナリー | 性自認が「男性/女性」の二元論に当てはまらない人々を指す包括的な言葉。 |
| Xジェンダー | 日本で生まれた言葉で、ノンバイナリーとほぼ同義。中性、両性、無性、不定性などを含む。 |
| トランスジェンダー | 出生時に割り当てられた性別と、自認する性別が一致しない人々を指す広い言葉。ノンバイナリーの人も、このトランスジェンダーの傘の下に含まれる場合がありますが、全てのノンバイナリーの人が自身をトランスジェンダーだと認識しているわけではありません。 |
| クィア | もともとは「風変わりな」といった侮蔑的な言葉でしたが、現在では当事者たちが肯定的に再定義し、性的マイノリティ全般を指す言葉として使われています。ノンバイナリーもクィアの一つのあり方です。 |
簡単に言えば、Xジェンダーは日本独自のほぼ同義の言葉、トランスジェンダーはより広い傘の言葉、そしてクィアはさらに大きな性的マイノリティの総称と捉えると分かりやすいかもしれません。
勇気ある公表:ノンバイナリーの有名人たち
ノンバイナリーという概念が広く知られるようになった背景には、影響力のある有名人たちの勇気あるカミングアウトがあります。彼ら・彼女らの言葉は、多くの人々に気づきを与え、社会の認識を大きく前進させました。
宇多田ヒカル:「私はノンバイナリー」
日本では、2021年6月のプライド月間に、歌手の宇多田ヒカルさんがインスタグラムのライブ配信で自身がノンバイナリーであることを公表したことが、大きなきっかけとなりました。
「I’m sick of being asked if I’m “Miss or Missus” or choosing between “Miss/Mrs/Ms” for everyday things. It makes me uncomfortable to be identified so strongly by my marital status or sex, and I don’t relate to any of them. Every time, I feel like I’m forced to misrepresent myself. I long for an alternative option, one that anybody of any gender or social standing could use.」
(「日常的に『ミスかミセスか』と聞かれたり、『ミス/ミセス/ミズ』の中から選ばされたりするのにうんざりしている。結婚歴や性別で強く識別されることに違和感があり、どれにも当てはまらない。毎回、自分を偽ることを強いられているように感じる。性別や社会的地位に関係なく、誰もが使える別の選択肢があればいいのに」)
この発言に続けて、宇多田さんは「Mys.(ミステリー)」という新しい敬称を提案し、自身がノンバイナリーであることを示唆しました。彼女の影響力は絶大で、この出来事を機に「ノンバイナリーとは何?」と検索した人も少なくありません。宇多田さんの告白は、多くの人々が自身の性のあり方について考えるきっかけを与えたと言えるでしょう。
XG COCONA:「女性として見られることに強い違和感」
そして2025年12月6日、世界を舞台に活躍するガールズグループXGのCOCONAさんが、20歳の誕生日にインスタグラムでノンバイナリーであることを公表しました。特に、彼女が「AFAB Transmasculine Non-binary」という具体的な言葉を使い、胸の切除手術を受けたことも明かしたことは、大きな衝撃と共に多くの人々に感銘を与えました。
「私はAFAB Transmasculine Non-binaryです。今年、胸の切除手術を行いました。生まれたときは女性として扱われましたが、自分では女性だとは思っていません。“女性”として見られることには強い違和感があり、自分はもっと男性的な存在として生きています。」
COCONAさんの言葉は、ノンバイナリーという自認が単なる概念ではなく、身体的な感覚や生き方と深く結びついていることを示しています。「自分自身を受け入れて認めること」が最も難しかったと語る彼女の誠実な言葉と、それを支えたメンバーや家族の存在は、同じように悩む多くの若者に勇気を与えました。SNSでは、「勇気ある告白に涙が出た」「自分のことのように嬉しい」「COCONAのおかげで自分も前を向けそう」といった感動と感謝の声が溢れています。
海外の有名人たち
海外に目を向けると、さらに多くの有名人がノンバイナリーであることを公表しています。
- サム・スミス(Sam Smith):グラミー賞受賞歌手であるサム・スミスは、2019年にノンバイナリーであることを公表し、代名詞を「they/them」に変更しました。彼らのカミングアウトは、世界中のメディアで大きく報じられ、ノンバイナリーの認知度向上に大きく貢献しました。
- デミ・ロヴァート(Demi Lovato):人気歌手・俳優のデミ・ロヴァートも、2021年にノンバイナリーであることを公表。一時期代名詞を「they/them」としていましたが、現在は「they/she」を使用しており、性のあり方が流動的であることも示しています。
- エリオット・ペイジ(Elliot Page):俳優のエリオット・ペイジは、トランスジェンダー男性であることを公表すると同時に、ノンバイナリーな感覚も持つことを示唆しており、代名詞として「he/they」を使用しています。
これらの有名人たちの存在は、「ノンバイナリー」が決して珍しいことではなく、ごく自然な人間のあり方の一つであることを社会に示しています。
SNSでのリアルな声:共感、疑問、そして見えてきた課題
有名人のカミングアウトは、SNS上で爆発的な議論を巻き起こします。そこには、当事者やアライ(支援者)からの温かいメッセージだけでなく、戸惑いや疑問、そして時には心ない言葉も存在します。これらのリアルな声に耳を傾けることで、ノンバイナリーをめぐる社会の現状と課題がより鮮明に見えてきます。
共感と祝福の声
COCONAさんの公表後、X(旧Twitter)では祝福と共感の嵐が吹き荒れました。
「COCONAちゃん、本当に勇気ある告白をありがとう。ずっと違和感を抱えて生きてきたから、自分の気持ちを代弁してくれたようで涙が止まらない」
「20歳でここまで自分と向き合えるなんて本当に尊敬する。これからもありのままのCOCONAちゃんを応援し続けます!」
「『自分の中にあるものは、ダメなものじゃないんだ』って言葉、お守りにします。」
こうした声は、同じように悩む人々にとって大きな支えとなり、一人ではないという感覚をもたらします。また、これまでノンバイナリーについて知らなかった人々にとっても、当事者の感情に触れる貴重な機会となります。
戸惑いと素朴な疑問
一方で、こんな声も少なくありません。
「ノンバイナリーって、結局どっちでもないってこと?よくわからない…」
「ガールズグループなのに、胸を切除するってどういうこと?歌やダンスに影響はないの?」
「最近、カタカナの言葉が多すぎてついていけない。昔はこんなことなかったのに。」
これらの声は、決して悪意から来るものばかりではありません。「知らないこと」に対する純粋な戸惑いや不安の表れです。こうした疑問に対して、感情的に反発するのではなく、一つ一つ丁寧に解説していくことが、社会全体の理解を深める上で不可欠です。
例えば、「ガールズグループなのに」という疑問は、無意識のうちに「女性の身体的特徴を持つべき」という性別二元論の規範に基づいています。しかし、COCONAさんの存在は、グループの魅力が身体的特徴ではなく、個々の才能やパフォーマンス、そして人間性によって決まることを証明しています。
知らずに傷つけているかもしれない「NGワード」
当事者のSNS投稿やブログを分析すると、日常生活の中に、意図せず彼ら・彼女らを傷つけてしまう「NGワード」が溢れていることがわかります。これらは、性別が「男/女」の二択しかないという前提(性別二元論)に基づいた言葉です。
【性別二元論に基づくNGワードの例】
- 「男女」:「男女問わず」「男女平等」など、全ての人を指すつもりで使われがちですが、ノンバイナリーの存在を消してしまいます。「すべての人」「誰でも」といった言葉に置き換えることが推奨されます。
- 「彼/彼女」:相手の性自認がわからない段階で、見た目から「彼」「彼女」と決めつけることは避けるべきです。英語圏で「they」が使われるように、日本語でも「その人」「あの方」といった表現が使えます。
- 「お父さん/お母さん」:保護者を指す際に使われますが、これも性別を限定します。「保護者の方」がより包括的な表現です。
- 公的書類の「男・女」以外の選択肢としての「その他」:一見配慮しているように見えますが、「その他大勢」として扱われているようで、当事者にとっては不快に感じられることがあります。「回答しない」「無回答」といった選択肢や、自由記述欄を設ける方が望ましいとされています。
こうした言葉は、一つ一つは些細なものに見えるかもしれません。しかし、日常的にこれらの言葉に晒される当事者にとっては、自分の存在が常に無視され、否定されているかのような感覚を抱かせる「マイクロアグレッション(自覚なき差別)」となり得るのです。
日本社会の課題と、私たちができること
ノンバイナリーという言葉の認知度は高まりつつありますが、社会の制度や人々の意識は、まだその変化に追いついていないのが現状です。特に、法律や行政サービスなど、生活の根幹に関わる部分で、ノンバイナリーの人々は多くの困難に直面しています。
制度の壁:戸籍、トイレ、健康保険証
現在の日本の法律では、性別は「男」か「女」の二択しか想定されていません。そのため、ノンバイナリーの人々は、自身の性自認と異なる性別で生きることを強いられています。
- 戸籍の問題:2024年12月、あるノンバイナリーの当事者が、戸籍の続柄を「長女」ではなく、性別を明らかにしない「子」と記載するよう求める家事審判を申し立てたことが報じられました。これは、性別二元論を前提とした戸籍制度そのものへの問いかけです。
- トイレの問題:多目的トイレの整備は進んでいますが、数が少ないのが現状です。男女別のトイレしか選択肢がない場合、どちらに入るべきか、周囲の視線はどうか、といった大きなストレスに日々晒されています。
- 公的書類の問題:健康保険証や運転免許証など、あらゆる場面で性別記載が求められます。自身のアイデンティティと異なる性別を提示し続けなければならないことは、精神的な苦痛を伴います。
2019年にアメリカのカリフォルニア州で、出生証明書や運転免許証の性別欄に「ノンバイナリー(X)」を記載できる法律が施行されたように、海外では法整備が進んでいます。日本でも、こうした制度の見直しが急務です。
私たち一人ひとりにできること
社会制度を変えるには時間がかかります。しかし、私たち一人ひとりが意識を変え、行動することで、ノンバイナリーの人々が生きやすい社会に一歩近づくことができます。
- 決めつけない:見た目や声、服装などで相手の性別を判断しないように心がけましょう。「〇〇さん」と名前で呼ぶことを基本とし、「彼」「彼女」といった代名詞を使う際は、可能であれば本人に希望を確認するのが最も丁寧です。
- 言葉を選ぶ:前述した「NGワード」を避け、「男女」ではなく「皆さん」、「彼・彼女」ではなく「その方」など、できるだけ包括的な言葉を選ぶように意識してみましょう。
- 学ぶ姿勢を持つ:わからないことがあれば、当事者の発信する情報や、信頼できる団体のウェブサイトなどで学んでみましょう。有名人のカミングアウトは、その絶好の機会です。なぜ彼らがその言葉を選んだのか、背景にある想いを想像することが理解の第一歩です。
- アライ(ALLY)であることを示す:アライとは、性的マイノリティの権利を擁護し、支援する人のことです。SNSで支援のメッセージを発信する、職場で勉強会を提案する、差別的な言動に「それは違う」と声を上げるなど、できることはたくさんあります。
まとめ:多様な性のあり方を尊重する社会へ
この記事では、「ノンバイナリーとは何か」という問いを入り口に、その意味、有名人の事例、社会の反応、そして私たちが向き合うべき課題について、多角的に掘り下げてきました。
宇多田ヒカルさんやCOCONAさんの公表は、単なる「有名人の告白」ではありません。それは、「男性か女性か」という窮屈な枠組みから私たちを解き放ち、人間一人ひとりのユニークなあり方を尊重する社会への扉を開く、力強いメッセージです。
ノンバイナリーという言葉を知ることは、ゴールではありません。それは、これまで見過ごされてきた人々の声に耳を傾け、よりインクルーシブ(包括的)で、誰もが自分らしくいられる社会を築いていくための、始まりの一歩なのです。
この記事が、あなたの理解を深め、明日からの行動を変える、小さなきっかけとなれば幸いです。

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