「必須が63/90ギリギリ…マークミスで足切りだったらどうしよう」
薬剤師国家試験の合否を分けるのは、総得点だけではありません。どれだけ総合点が高くても、必須問題の足切り基準を1問でも下回れば不合格になります。
厄介なのは、足切りの仕組みが意外と複雑なこと。全体の70%ルール、科目別の30%ルール、そして禁忌肢——実は3つの足切りが同時に存在するのに、それをきちんと整理した情報は多くありません。
この記事では、薬剤師国家試験の足切り制度を基礎から徹底解説します。科目別の足切りライン早見表、制度が緩和された歴史的経緯、廃問が出た場合の計算方法、そして厚生労働省が公表していない足切り不合格者数の推定データまで、不安を抱える受験生に必要な情報をすべてまとめました。
薬剤師国家試験の足切りとは?3つの不合格パターン

薬剤師国家試験には、3つの足切り基準があります。総得点がボーダーを超えていても、以下のいずれか1つに引っかかれば不合格です。
①必須問題の全体足切り:90問中63問以上(70%以上)
必須問題は全90問。このうち63問以上を正答しなければ不合格です。必須問題は基礎的な知識を問う一問一答形式が中心で、試験1日目に出題されます。
②必須問題の科目別足切り:7科目すべてで30%以上
全体で63問を超えていても、7科目のうち1科目でも30%を下回ると不合格になります。たとえば物理・化学・生物の15問中4問しか取れなかった場合、他の科目がすべて満点でも足切りです。
③禁忌肢:3問以上選択で不合格
第104回(2019年)から導入された禁忌肢は、「患者に重大な障害を与える」「法律に明確に抵触する」内容の選択肢です。3問以上選択すると、総得点に関係なく不合格になります。厚生労働省は合格発表時に「禁忌肢問題選択数は2問以下」と毎回明示しており、第104回〜第110回まで同一基準が維持されています。なお、どの問題が禁忌肢かは非公表で、予備校の推定では例年5〜8問が設定されています。
つまり、薬剤師国家試験に合格するには「総得点がボーダー以上」「必須問題で63問以上」「必須の全科目で30%以上」「禁忌肢2問以下」の4条件をすべて満たす必要があるということです。
必須問題の科目別足切りライン早見表

7科目それぞれの必須問題数と、30%足切りラインの具体的な問題数は以下の通りです。
| 科目 | 必須問題数 | 30%足切りライン | つまり何問ミスまでOK? |
|---|---|---|---|
| 物理・化学・生物 | 15問 | 5問以上 | 10問までミスOK |
| 衛生 | 10問 | 3問以上 | 7問までミスOK |
| 薬理 | 15問 | 5問以上 | 10問までミスOK |
| 薬剤 | 15問 | 5問以上 | 10問までミスOK |
| 病態・薬物治療 | 15問 | 5問以上 | 10問までミスOK |
| 法規・制度・倫理 | 10問 | 3問以上 | 7問までミスOK |
| 実務 | 10問 | 3問以上 | 7問までミスOK |
| 合計 | 90問 | 63問以上(70%) | 27問までミスOK |
注意すべきポイントが2つあります。
まず、物理・化学・生物は3科目合算で1科目扱いです。物理が0点でも化学と生物で合計5問取れていればクリアになります。個別科目ではなく合算で判定されることを覚えておきましょう。
もう1つ、一般問題(薬学理論問題105問+薬学実践問題150問)には科目別の足切りがありません。第101回(2016年)に廃止されました。足切りが存在するのは必須問題だけです。
足切り制度の歴史|50%→30%に緩和された経緯

現在の「各科目30%」という足切りラインは、最初から30%だったわけではありません。制度は段階的に変化してきました。
| 適用期間 | 必須全体 | 必須各科目 | 一般各科目 | 総得点 | 禁忌肢 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第97〜100回(2012〜2015年) | 70%以上 | 50%以上 | 35%以上 | 65%絶対基準 | なし |
| 第101〜103回(2016〜2018年) | 70%以上 | 30%に緩和 | 廃止 | 相対基準(経過措置あり) | なし |
| 第104〜105回(2019〜2020年) | 70%以上 | 30% | 廃止 | 相対基準(経過措置あり) | 導入 |
| 第106回〜現在(2021年〜) | 70%以上 | 30% | 廃止 | 完全相対基準 | あり |
大きな転換点は第101回(2016年)です。必須各科目の足切りが50%→30%に引き下げられ、一般問題の科目別足切りも完全撤廃されました。同時に総得点が相対基準に移行しています。
この緩和の背景には、年度によって合格率が大幅に変動し、薬剤師の確保に影響が出るという問題がありました。特に第100回(2015年)では物理・化学・生物の足切り(当時は50%基準)に多くの受験者が引っかかり、新卒合格率が危機的な水準に低下。これが制度緩和を後押しする大きなきっかけとなりました。
なお、一部のサイトで「足切りは第104回から導入」と記載されているケースがありますが、これは禁忌肢との混同です。足切り自体は第97回から存在しており、第104回で導入されたのは禁忌肢のみです。
廃問が出たら足切りはどうなる?全員正解と採点除外の違い

薬剤師国家試験では、出題ミスなどにより「採点にあたって考慮した問題」が毎年公表されます。この処理方法には3種類あり、足切りへの影響がまったく異なります。
3つの処理方法と足切りへの影響
| 処理方法 | 内容 | 足切りへの影響 |
|---|---|---|
| 全員正解 | 全受験者に1点加算 | 分母は90問のまま。62点→63点でクリア |
| 複数正解 | 正解選択肢を追加 | 影響は個人による |
| 採点除外(真の廃問) | その問題を採点対象から除外 | 分母が89問に縮小 |
62点の受験者で比較すると…
たとえば必須問題で62問正答した受験者がいたとします。あと1問で足切りクリアというギリギリの状況です。
「全員正解」の場合:62問+1問=63問。分母は90問のまま。63/90=70.0%で足切りクリア。
「採点除外」の場合:62問のまま。分母が89問に縮小。62/89=69.66%で足切り不合格。
たった1問の処理方法の違いで、合否が分かれる可能性があるということです。
ただし、調査した範囲(第95回〜第110回)で必須問題に「採点除外」が適用された事例は確認できませんでした(一般問題では発生しています)。必須問題は基礎的な一問一答形式のため、出題ミスが構造的に起きにくいと考えられます。
とはいえ、制度上はあり得る処理です。自己採点がギリギリの方は、廃問候補の動向を予備校の速報で確認しておきましょう。
足切り不合格は毎年何人いる?|データから見る実態

結論から言うと、厚生労働省は足切りによる不合格者数を一切公表していません。合格発表で開示されるのは受験者数・合格者数・合格率・合格基準点のみで、不合格の内訳(足切り・総得点不足・禁忌肢)は非開示です。
予備校の推計:年間約650人(全受験者の約5%)
ある予備校講師の分析によると、試験1日目の必須問題で足切りに引っかかったと判断した受験者は、2日目を受験しないケースが多いとのこと。各会場で約50人が2日目に欠席しており、全国約13会場から逆算すると推定650人前後。受験者全体の約5%にあたります。ただし、この数字は非公式の推計であり、体調不良などによる欠席も含まれるため、やや多めの見積もりです。
「総得点クリア+足切りのみ不合格」はごく少数
別の予備校講師は、「トータル得点率65%以上で足切りに引っかかる人は滅多にいない」「210点以上取れて足切りになった人はほとんどいない」と分析しています。
つまり、足切り不合格者の大多数はもともと総得点もボーダー以下であり、純粋に「総得点は余裕なのに足切りだけで落ちた」という人は毎年数十人程度と推定されています。
第100回「物化生ショック」——足切りが社会問題になった年
足切りの恐ろしさを最も象徴する事例が、第100回(2015年)です。
この年、物理・化学・生物の必須問題が極端に難化。当時の足切りラインは各科目50%だったため、15問中8問以上の正答が必要でした。薬事日報は「必須問題『物理・化学・生物』で合格基準を満たせない受験者が非常に多い。総点で合格点に達していても多数の不合格者が出る見込み」と報道しています。
この事態が「足切りラインの50%→30%への引き下げ」を後押しし、翌年の第101回から制度が緩和されました。現在の30%基準(15問中5問でOK)であれば、第100回の受験者の多くが救われていた計算になります。
【2026年】第111回の必須問題の難易度と足切りリスク
2026年2月21日・22日に実施された第111回薬剤師国家試験について、必須問題の状況を整理します。
必須問題は「易化」がコンセンサス
X上の受験者の声、予備校の分析ともに、第111回の必須問題は前年比で易化したという見方が大勢です。「基礎固めしていれば難なく解ける問題が多かった」「過去問対策で十分だった」という声が目立ちます。
メディセレの自己採点システム速報(2月23日時点)では、必須問題の平均が74.5点/90点と高い水準を記録。足切りに引っかかる受験者は例年より少ないと予想されています。
注意が必要な科目
全体としては易化でしたが、物理の計算問題や薬剤の一部問題で「自分だけ難しかった」という声も散見されます。物化生は毎年足切りリスクが最も高い科目です。自己採点で物化生が5問ギリギリの方は、予備校間の解答割れを確認しておきましょう。
第111回の廃問候補
2月25日時点で、必須問題には廃問候補は確認されていません。薬ゼミが疑義を指摘しているのは一般問題の問199(ファントホッフの法則・浸透圧計算)などで、必須の足切り計算に影響する可能性は低いと見られます。
第111回のボーダー予想や科目別難易度の詳細は、こちらの記事で詳しく分析しています。
→ 第111回薬剤師国家試験 ボーダー予想は何点?213点は合格できる?

まとめ
薬剤師国家試験の足切りについて、制度の仕組みから実態データまでまとめました。
合格するには、「総得点がボーダー以上」に加えて、必須問題全体で63問以上(70%以上)、7科目すべてで30%以上、禁忌肢2問以下という3つの足切り条件をすべてクリアする必要があります。
足切り不合格者は毎年推定約650人(全受験者の約5%)。ただし、「総得点は十分なのに足切りだけで落ちた」というケースはごく少数です。30%基準で落ちる人は大半がそもそも総得点も厳しい状況にあります。
廃問が出た場合、「全員正解」と「採点除外」で合否が変わる可能性がありますが、過去に必須問題で採点除外になった事例は確認されていません。
自己採点がギリギリの方は、1社だけでなく複数の予備校の解答速報でクロスチェックすること。そして結果は3月の合格発表まで確定しないこと。今できるのは、正確な情報をもとに冷静に判断することだけです。

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