エレベーターに閉じ込められてパニック!「落ち着いて」が逆効果な理由と正しい対処法

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スカイツリー事故で再注目|閉じ込め中のパニックは他人事じゃない

2026年2月22日、東京スカイツリーのエレベーターが緊急停止し、子ども2人を含む20人が約5時間47分にわたって閉じ込められました。全員けがはなかったものの、乗客は「エレベーターが急降下した後に止まった」と119番通報しており、自由落下の恐怖を体験した可能性が高いと考えられています。

SNS上では「閉所恐怖症だから絶対無理」「5時間もパニックにならずにいられる自信がない」といった声が多数寄せられました。展望デッキに取り残された家族は「娘たちも怖がって、景色を楽しむ余裕もなかった」と証言しています(毎日新聞報道)。

エレベーターの閉じ込めは年間約9,000件以上発生しています。首都直下地震では最大22,426台が停止し、救出に半日以上かかるケースも想定されています。閉じ込めは誰にでも起こりうることであり、そのときパニックにどう対処するかを知っているかどうかで、心身への影響は大きく変わります

この記事では、エレベーター閉じ込め時のパニックについて、精神科の知見・消防の対応マニュアル・最新の研究データをもとに徹底解説します。

エレベーターに閉じ込められると心と体に何が起きるのか

エレベーターが停止した瞬間、私たちの体では交感神経が急激に活性化します。これは「闘争・逃走反応」と呼ばれる生存本能で、心拍が上がり、呼吸が速くなり、手のひらに汗をかきます。

通常であればこの反応はすぐに収まりますが、エレベーターという「逃げ場のない密閉空間」ではストレスが持続し、以下のような症状に発展することがあります。

パニック発作の典型的な症状:激しい動悸、過呼吸(息苦しさ・窒息感)、手足の震え、めまい、吐き気、胸の圧迫感、そして「死ぬかもしれない」「気が狂うかもしれない」という強烈な恐怖。発作自体は通常10〜30分でピークを迎え、自然に収まります。しかし密閉空間では「逃げられない」という感覚が恐怖を増幅させ、悪循環に陥りやすいのです。

子どもの場合は恐怖がより強く表れ、泣き叫んだりパニック状態になりやすい傾向があります。スカイツリー事故でも女児2人が含まれており、長時間の閉じ込めが子どもの精神に与える影響は見過ごせません。

高齢者の場合は、パニックが心臓への負荷を高めるため、持病(心疾患・高血圧)の悪化リスクがあります。認知症の方は状況の理解が難しく、混乱がさらに深まることも考えられます。

停電を伴うケースでは、閉所恐怖に加えて暗闇への恐怖が重なり、パニックのリスクがさらに高まります。2018年の大阪北部地震では約346台で閉じ込めが発生し、停電下で長時間閉じ込められた体験談が多数報告されました。

「落ち着いて」は逆効果?科学が示すパニック時にやってはいけないこと

閉じ込められた人がパニックを起こしたとき、周囲の人がつい言ってしまうのが「落ち着いて」「大丈夫だから」という言葉です。しかし、複数の精神科医がこれを「言ってはいけない言葉」として明確に警告しています。

なぜ逆効果なのか。理由は脳の仕組みにあります。

パニック発作中は脳の扁桃体(恐怖を処理する部位)が過剰に活動し、前頭前皮質(冷静な判断を担う部位)の機能が低下しています。つまり、「落ち着け」という言語的な指示を理解・実行する脳の機能がそもそも働いていない状態なのです(Nature Communications, 2020年の研究で実証)。

さらに「落ち着いて」という言葉は、相手の不安を否定するメッセージとして伝わります。心理学ではこれを「感情のインバリデーション(無効化)」と呼び、不安をかえって増大させることが実験的にも確認されています。「落ち着けと言われても落ち着けない自分」に対する二次的な不安が生まれ、パニックの悪循環を強化してしまうのです。

紙袋呼吸法(ペーパーバッグ法)も危険

もう一つ、多くの人が「過呼吸には紙袋」と思い込んでいますが、紙袋呼吸法は現在の医学では明確に「非推奨」です。

1989年にAnnals of Emergency Medicine誌に掲載されたCallaham医師の論文で、紙袋再呼吸法による3件の死亡例が報告されました。これらの患者は過換気症候群と思われていましたが、実際には心筋虚血や低酸素血症が原因であり、紙袋が致命的に作用しました。

紙袋法が危険な理由は、袋の中の酸素濃度が急速に低下し低酸素状態を招くこと、そしてCO₂の再吸入がパニック障害患者ではかえってパニックを誘発することにあります。日本でも医学書院の「medicina」誌(2021年)が「ペーパーバッグ法はもう古い!」と題した記事を掲載しており、救急医学の現場では非推奨が標準的な見解となっています。

パニック発作が起きたらどうする?今すぐ使える3つの対処法

では、紙袋も使えず「落ち着いて」とも言えないなら、実際にどうすればいいのでしょうか。エビデンスに基づいた3つの方法を紹介します。

① 4-7-8呼吸法で副交感神経を活性化する

アリゾナ大学統合医療センターのAndrew Weil医師が体系化した呼吸法で、ヨガのプラナヤマを基にしています。

やり方はシンプルです。鼻から4秒かけて吸い、7秒間息を止め、口から8秒かけてゆっくり吐く。これを3〜4回繰り返します。

ポイントは「吐く時間を長くする」ことです。呼気を延長することで迷走神経が刺激され、副交感神経が優位になります。Vierra et al.(2022年、Physiological Reports)の研究では、心拍変動(HRV)の改善と血圧低下が確認されています。

パニック発作の急性期に特化した大規模研究はまだ存在しませんが、「ゆっくり吐くことに集中する」呼吸法全般の不安軽減効果は複数のメタ分析で一貫して支持されています。

② 5-4-3-2-1グラウンディング法で「今ここ」に戻る

パニック発作中は思考が「死ぬかもしれない」「逃げられない」という恐怖に支配されます。これを断ち切るのがグラウンディング(接地)という技法です。

五感を使って「今ここ」の現実に意識を戻します。

5:目に見えるものを5つ挙げる(エレベーターのボタン、天井のライト、自分の靴など)。4:触れるものを4つ感じる(壁の冷たさ、カバンの感触など)。3:聞こえるものを3つ探す(空調の音、自分の呼吸など)。2:匂いを2つ意識する。1:味を1つ感じる。

この方法はGoogleの関連する質問にも「パニック障害の54321法とは?」として表示されるほど認知度が高まっています。複数の心療内科サイトが推奨しており、特別な道具は一切不要。エレベーター内でも即座に実践できるのが最大の強みです。

③ 声かけは「共感+具体的な誘導」で

周囲にパニックを起こしている人がいる場合、正しい声かけが極めて重要です。

消防のエレベーター救助マニュアルでも「要救助者の精神状態をしっかり確認し、安心させるような言葉をかける」と明記されています。

精神科医が推奨するのは以下の4ステップです。①「ここにいるよ」と安心感を伝える → ②「今、どうしたい?」と本人の希望を確認する → ③「外に出る?水飲む?」と選択肢を提示する → ④「じゃあ一緒に深呼吸しよう」と合意を得て導く。

感情を否定せず「怖いよね」と受け止めることが最も効果的です。fMRI研究では、感情を言語化する(「怖いね」と言う)ことで扁桃体の活動が低下することが実証されています(Lieberman et al., 2007年, Psychological Science)。

閉所恐怖症の人がエレベーターに乗るための事前対策

ここまでは「閉じ込められた後」の対処法でしたが、そもそもエレベーターに乗ること自体が恐怖だという人も少なくありません。

限局性恐怖症(特定の対象や状況への過剰な恐怖)の生涯有病率は日本人で約3.4%(世界精神保健日本調査、川上憲人教授ら、n=4,130)。閉所恐怖症はその中の「状況型」に分類され、国際的には約4%前後の有病率が報告されています。

日常生活に支障が出ている場合は心療内科・精神科への受診を検討してください。主な治療法は以下の通りです。

エクスポージャー療法(段階的暴露)

恐怖の対象に段階的に触れることで慣れていく方法です。具体的には、エレベーターの写真を見る → ドアが開いた状態で中に立つ → 1階だけ乗る → 徐々に階数を増やす、といったステップを踏みます。

Öst(1989年)の研究では、治療を完遂した患者の90%が4年後も改善を維持していたと報告されています。ただし完全寛解率は65%で、ドロップアウト率(最大45%)を考慮すると「必ず治る」とまでは言えません。それでも限局性恐怖症に対して最もエビデンスが蓄積された治療法です。

頓服薬の使用

エレベーターに乗る必要がある場面で、事前にベンゾジアゼピン系の抗不安薬(ロラゼパムなど)を服用する方法もあります。MRI検査前の不安軽減などで実績がある方法ですが、依存リスクがあるため必ず医師の指示のもとで使用してください。

日常でできること

タワーマンションや高層ビルに勤務・居住している方は、低層階を選ぶ、階段を併用する、スマホの充電を常に確保しておくといった工夫が有効です。また体調不良・睡眠不足のときは不安が増しやすいため、コンディションの悪い日は無理せず階段を使うことも選択肢です。

閉じ込め後のPTSD・トラウマに注意

見落とされがちですが、閉じ込め体験はPTSD(心的外傷後ストレス障害)のきっかけになることがあります。特に長時間の閉じ込め、暗闇を伴うケース、子どもや高齢者はリスクが高いとされています。

閉じ込め後に以下の症状が現れたら注意が必要です。

エレベーターに乗ろうとすると当時の恐怖がフラッシュバックする、エレベーターのある場所を避けるようになる(回避行動)、不眠や悪夢が続く、閉じ込めと関係のない日常場面でも不安や動悸が起きる。

これらの症状が1ヶ月以上続く場合は、精神科・心療内科への受診をおすすめします。早期の認知行動療法が効果的であることがわかっています。

子どもの場合は、悪夢・退行行動(年齢に合わない甘え)・エレベーターの話題を極端に嫌がるなどのサインに注意してください。無理にエレベーターに乗せるのではなく、専門家と相談しながら段階的に対応することが大切です。

東京消防庁の安全工学論文(2011年)でも、「長時間の閉じ込めの恐怖による精神的後遺症」が潜在的な重大問題として指摘されています。

まとめ

エレベーターの閉じ込めは年間9,000件以上起きており、パニックは誰にでも起こりうる自然な反応です。大切なのは「パニックにならないこと」ではなく、パニックが起きたときにどう対処するかを知っておくことです。

紙袋呼吸法は死亡例があり使うべきではありません。「落ち着いて」という声かけも逆効果です。代わりに4-7-8呼吸法やグラウンディングを試し、周囲の人には「怖いよね」と共感することが最も効果的です。

閉所恐怖症でエレベーターが怖い方は、エクスポージャー療法という確立された治療法があります。一人で抱え込まず、専門家に相談してみてください。

なお、エレベーター閉じ込め時のトイレ問題については、こちらの記事で統計データ・防災キャビネットの比較・携帯トイレの備えまで詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

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