tuki.の楽曲『晩餐歌』が、ILLITやZEROBASEONEをはじめとするK-POPアーティストたちに相次いでカバーされている。「なぜK-POPアイドルが日本の曲を?」という疑問とともに、そもそも「晩餐歌」というタイトルの「晩餐」とはどういう意味なのか、気になった人も多いのではないだろうか。
この記事では、「晩餐」という言葉の意味を起点に、tuki.『晩餐歌』の歌詞が持つ世界観と、K-POPシーンで巻き起こったカバー現象の全貌をまとめる。
「晩餐」という言葉の意味とは

「晩餐(ばんさん)」という言葉は、日常会話ではあまり使わない。意味を調べると「正式な場や特別なゲストを招いて開く、格式のある夕食」と出てくる。「晩(夕方)」+「餐(食事)」で成り立つ漢語由来の言葉で、日本語では文学的・やや贅沢な響きをもつ表現だ。
「晩餐会」という形になると、食事を囲む会やパーティーそのものを指す。レストランで友人と食べる夕食は「晩餐」とは呼ばず、大統領が国賓を招く公式夕食会や、格式ある宴席に使う言葉というイメージが近い。
有名な用例として「最後の晩餐」がある。これはキリスト教における、イエス・キリストが処刑前夜に弟子たちと囲んだ最後の食事を指す言葉で、「人生の最後に大切な人と食卓を囲む」という象徴的な意味でも広く使われる。
韓国語「만찬(マンチャン)」も同じ意味
韓国語でも「晩餐」は「만찬(マンチャン)」と書き、意味はほぼ同じだ。客人を招いて一緒にいただく格式ある夕食のことで、「대통령 만찬(テトンリョン・マンチャン)=大統領晩餐」という形でニュースによく登場する。
朝食を「조찬(チョチャン)」、昼食を「오찬(オチャン)」と呼ぶのに対し、夕食の公式な場が「만찬」となる対比構造も日本語とほぼ共通している。
「豪華な食事・盛大な宴会」というニュアンスで使いたい場合、韓国語では正確には「성찬(ソンチャン=盛餐)」が当てはまる。「만찬」は「客を招いた公式な夕食の場」という意味合いが強い点で、微妙に使い方が異なる。
tuki.とはどんなアーティスト?

tuki.(ツキ)は2008年6月15日生まれ、現役の高校生シンガーソングライターだ。本名・素顔・出身地はすべて非公開で、「月のようにミステリアスなイメージ」から命名されたという。
幼い頃からピアノを習っていたが、13歳のころにコロナ禍の自粛期間中に父親のギターを手にし、弾き語りの練習を開始。TikTokへの投稿を重ねるうちに注目を集めた。
『晩餐歌』の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| タイトル | 晩餐歌(ばんさんか) |
| アーティスト | tuki. |
| リリース日 | 2023年9月29日(デジタル) |
| 収録アルバム | 『15』 |
| 韓国語タイトル | 만찬가(マンチャンガ) |
2023年9月にデジタルリリースされると、TikTokとYouTubeでの弾き語り動画が連鎖的に拡散。Spotifyのバイラルチャートで1位を記録し、2024年にはBillboard Japanのストリーミングランキングで1位、NHK紅白歌合戦にも出場した。デビュー当時まだ中学3年生という事実も話題を呼んだ。
『晩餐歌』の歌詞が持つ世界観

『晩餐歌』の歌詞は、「食事」を恋愛のメタファーとして全編に織り込んだ構成が特徴だ。フルコース・食べ物・晩餐という食の言葉が、愛情・欲望・別れという感情と重なり合って展開する。
「浮気の歌」なのか「純愛の歌」なのか
Yahoo!知恵袋には「晩餐歌 意味」関連の質問が60件以上投稿されており、最も閲覧された質問は8万回を超える。これだけの人が「意味がわからない」と感じた理由のひとつが、歌詞の解釈が一通りでないという点だ。
あるフレーズをめぐり、「浮気願望を描いた歌では」という声と、「愛する人に完璧な愛を求める切なさの表現では」という声が真っ向から対立している。
実際には、主人公が「自分は相手を傷つけてしまう人間だ」という自覚のもと、距離を置こうとしながらも完全には諦めきれない葛藤を描いた楽曲と解釈するのが自然だ。「晩餐」という豪華で特別な食事のイメージが、「かけがえのない相手との時間」を象徴している。
知恵袋のベストアンサーでは「相手という存在がいながら他の人にも目が向いてしまう自分を自覚し、そんな自分だから一緒にいてはいけないと思っている」という読み解きが支持を集めている。楽曲の結末は「それでも最高の愛を求めている」という矛盾した感情で締めくくられており、だからこそ白黒つけられない曲として多くのリスナーの心に引っかかり続ける。
父親の言葉から生まれた「時間の大切さ」
tuki.は楽曲の着想について、父親から「人間は3万日くらいしか生きられない」という言葉を聞かされたことを挙げている。その有限な時間の中で、誰かと食卓を囲む一瞬一瞬が「晩餐」ほどに尊いものだという感覚が、楽曲の根底に流れている。
歌詞は「浮気か純愛か」という二択では語り切れない。切なさ・感謝・自己嫌悪・それでも誰かを想う気持ちが混在した、15歳が書いたとは思えない複雑な感情の地図だ。
なぜK-POPアーティストが次々カバーするのか

『晩餐歌』が韓国で認知されたのは2024年ごろから。TikTokやYouTubeを通じて日本から自然流入し、2024年5月には韓国のストリーミングチャートで自己最高位を記録したと報じられている。
連鎖のきっかけはStray Kids ハン
K-POPアーティストによるカバーが連鎖するきっかけとなったのが、Stray KidsのメンバーであるハンによるInstagramでの弾き語り動画だ。THE FIRST TIMESも「Stray Kids ハン、tuki.の『晩餐歌』をギターで弾き語りする動画を公開」と報じており、この動画がK-POPファン層に一気に拡散した。
K-POPアーティストたちがこの楽曲を好む理由は3点に整理できる。まずボーカル表現の幅が広く、歌唱力を見せやすい構成であること。次に歌詞が日本語でありながら「感情の普遍性」が高く、韓国のリスナーにも直感的に伝わること。そして弾き語りというシンプルな形でカバーしやすいこと、だ。
「J-POPなのにK-POPのボーカルにぴったり」という反応がX上で相次いだのは、この楽曲が持つメロディのダイナミクスと感情表現の余白が、K-POP特有の声の使い方と親和性が高いからだと考えられる。
K-POPアーティストによる主要カバー一覧

2025年から2026年にかけて、10組以上のK-POPアーティストが『晩餐歌』のカバーを公開している。いずれも日本語原語のまま歌っており、韓国語訳詞版は確認されていない。K-POPアーティストがJ-POPを日本語でカバーする文化は「原語尊重」として定着しており、「日本語の発音が美しい」とむしろ称賛される傾向がある。
**ILLIT(MOKA)**は公式YouTubeおよびInstagramでフルバージョンを公開。THE FIRST TIMESとUSENがいずれも「100万再生突破」と報じており、「MOKAの声にぴったり」とX上で大きく拡散した。
**ZEROBASEONE(ハン・ユジン)**は公式YouTubeの「RECORDING RM」シリーズでレコーディングバージョンを公開。柔らかい声質と楽曲の切ない世界観が合うと好評を得た。
BTOB ユク・ソンジェはYouTubeでカバーを公開。Kstyle等の日本向けK-POPメディアでも取り上げられた。
Apink チョン・ウンジ & イ・ジュニョンはドラマ『24時ヘルスクラブ』のプロモーションに関連したデュエットバージョンを公開した。
**H1-KEY(Riina)**は誕生日カバーの恒例企画として公式YouTubeで公開。
**韓国VTuber イオモン(이오몽)**は国楽風にアレンジしたカバーを公開し、再生数が1,000万回を超えるほどの爆発的な人気を集めた。Xでは「普段は数千再生のカバーが1,000万回を超えた」と衝撃の声が上がった。
振付師グヨン先生はイベントでのサプライズ歌唱がXに投稿され、「フルカバーを出してほしい」という声が相次いだ。
このほかKep1er、PURPLE KISS、SF9メンバー、ONEUSなども参加しており、Kstyleは2025年5月に「人気アーティストが続々とカバーを公開」として特集記事を掲載している。
韓国語タイトル「만찬가(マンチャンガ)」とは

韓国では『晩餐歌』は「만찬가(マンチャンガ)」と表記される。読み方は「マンチャンガ」で、「만찬(晩餐)+가(歌)」の構成だ。
TikTokでは「#만찬가」タグで歌詞動画やカバー動画が大量に投稿されており、日本語タイトルのまま「#晩餐歌」タグと並行して使われている。「まんちの曲って晩餐歌か?韓国語の発音的にそうな気がしてる」というXの投稿が話題になったように、韓国語読みと日本語タイトルが混在する形でファンの間に広まった。
「晩餐(만찬)」という言葉自体は韓国でも日本と同様、日常的に使う語彙ではない。だからこそ「晩餐歌」というタイトルは、韓国のリスナーにとっても「特別で格式ある食卓」というイメージを喚起し、楽曲の世界観と自然に重なる。tuki.が選んだこの一語が、言語の壁を超えて共鳴した理由のひとつかもしれない。
なお「최후의 만찬(チェフエ・マンチャン)」は韓国語で「最後の晩餐」を意味する。キリスト教美術でも有名なこの表現が示すように、「만찬」には「人生の節目に大切な人と囲む食卓」という重みが文化的に込められている。tuki.の楽曲が持つ「有限な時間の中で誰かと食べる特別な夜」というテーマは、こうした文化的文脈とも無意識に響き合っているといえる。

コメント