※この記事にはバイオハザード9(バイオハザード レクイエム)のネタバレが含まれます。未クリアの方はご注意ください。
エミリーとは?ローデスヒル療養所で発見された謎の少女

『バイオハザード レクイエム』の序盤、主人公グレース・アシュクロフトがローデスヒル慢性療養所(Rhodes Hill Chronic Care Center)に連行されると、隔離室に閉じ込められた一人の少女と出会います。
識別番号 Subject 171。それがエミリーです。
青白い肌に痩せ細った体、実験による重度白内障で両目が見えず、感情表現も乏しい。血の概念すら知らない様子が看護師ログにも記録されており、明らかに普通の子どもではありません。見た目は10歳前後ですが、後に判明する出自を考えると実年齢は不明です。
グレースがエミリーを隔離室から解放して以降、エミリーはグレースに抱えられて移動するコンパニオンとなります。ブライユ(点字)パズルの解読を手伝い、地下牢でマリーの人形部屋から再救出され、やがてヘリコプター墜落で重傷を負い変異してしまう。プレイヤーはエミリーを通じて、守るべき存在への感情移入を否応なく深めていくことになります。
では、エミリーとは一体何者なのか。その答えはゲーム後半で明確に示されます。
エミリーの正体はグレースのクローンだった

物語終盤、ラクーンシティ地下のARK施設でゼノ(Connectionsエージェント)との会話とラボファイルによって、エミリーの正体が確定します。
エミリーは グレース・アシュクロフトを再現するために作られたクローン です。
犯罪組織コネクションズ(The Connections)と元アンブレラ科学者ヴィクター・ギデオンが共謀し、万能抗ウイルス剤 Elpis(エルピス) の解明を目的として、グレースの複製をARK施設内で体外妊娠(ex utero gestation)により製造しました。エミリーはその171番目の被験体であり、実験の過程で白内障を患い盲目になっています。
つまりエミリーは純粋な被害者であり、ゲーム内の用語でいえばB.O.W.(生物兵器)として生み出された存在です。敵対意志は一切なく、変異も本人の意思とは無関係に起こったものでした。
ここで重要なのは、エミリーの正体がゲーム内で 公式に確定している という点です。ファンの間で意見が分かれるような曖昧な描写ではなく、ファイルと会話の両方で明言されています。では、なぜこの設定がここまでファンの間で議論を呼んでいるのか。それはエミリー個人の正体よりも、彼女が生まれた背景にあるシリーズ全体の系譜にあります。
スペンサーからエミリーへ|クローン計画の系譜を読み解く

エミリーの存在を理解するには、バイオハザードシリーズの原点であるアンブレラ創設者 オズウェル・E・スペンサー まで遡る必要があります。
スペンサーはかつてT-ウイルスや始祖ウイルス(プロジェニター)を用いた不老不死研究を推進した人物ですが、レクイエムで明かされた新事実によれば、晩年の彼は自らが生み出したウイルスの惨禍を悔い、贖罪としてElpisの研究に着手していました。Elpisとはギリシャ語で「希望」を意味し、プロジェニターウイルスおよびその全派生物(T-ウイルス、G-ウイルス、菌根を含む)を無効化する万能抗ウイルス剤です。よくある誤解ですが、ElpisはT-ウイルスだけに効く治療薬ではありません。
このElpisの鍵を握る存在として、スペンサーは幼いグレースを引き取ります。そして後に、彼女をアリッサ・アシュクロフトに養育を託しました。
ここで注意すべき重要な事実があります。アリッサはグレースの 養母 であり、実の母親ではありません。アリッサは『バイオハザード アウトブレイク』シリーズに登場したジャーナリストで、グレースの姓「アシュクロフト」はアリッサから受け継いだものです。ゲーム内では実績「Like Mother, Like Daughter」(ロックピック初使用時に解除)が、アリッサの能力への直接的なオマージュとなっています。
整理すると、系譜はこうなります。
スペンサー(Elpis研究の創始者)→ グレース(Elpis解明の鍵となる存在)→ アリッサ(養母として養育)→ コネクションズ+ギデオン(グレースの複製を量産)→ エミリー(Subject 171)、マリー(Subject 170) ほか多数のクローン
この構造は『バイオハザード リベレーションズ2』でアレックス・ウェスカーが行った人格転移実験と酷似しています。既存の人間を「再現」して目的を果たそうとする発想が、シリーズを通じて繰り返されているわけです。エミリーはその最新の犠牲者であり、同時にシリーズの過去と現在を繋ぐ結節点でもあります。
エミリーは生存できる|Goodエンドの条件と設定的根拠

エミリーの生死はエンディング分岐によって決まります。
Goodエンド(Hope)の条件は明快です。ARK施設の端末でパスワードとして「Hope」を入力し、Elpisを解放する。それだけです。それ以前の行動や収集物は分岐に一切影響しません。逆にパスワード「Destruction」を入力するとARKが自爆し、レオンが死亡、エミリーも救えないBadエンドとなります。
Goodエンドを迎えた場合、Elpis注射によって全ウイルスが無効化され、エミリーは変異から回復。白内障も治癒し、エンディングではグレースの養子となった姿が写真と電話シーンで描かれます。
ここで多くのプレイヤーが抱く疑問が、生存の整合性です。
怪物化した状態から人間に戻れるのか。白内障まで治るのは都合が良すぎないか。 知恵袋やXでもこの点は繰り返し議論されています。
設定的な根拠としては、Elpisがプロジェニター系統の全ウイルスを無効化する万能抗ウイルス剤であることが鍵です。エミリーの変異はウイルス由来であり、Elpisがウイルスそのものを中和することで変異が逆行したと解釈できます。白内障についても、元々の原因が実験によるウイルス関連の損傷であれば、ウイルス除去に伴い治癒したという説明は設定上は成立します。
ただし、ゲーム内でこのメカニズムが詳細に説明されているわけではありません。レオンの判断(致命傷を避けた射撃)とElpisの効果が組み合わさった結果という描写に留まっており、設定を信頼するかどうかはプレイヤーに委ねられている部分です。
筆者の見解としては、Elpisの設定スケールを考えれば整合性は保てているものの、視力回復までカバーする点については今後の公式補足があると嬉しいところです。
マリー(The Girl)とエミリー|失敗クローンの悲劇

エミリーの物語をより深く理解するために欠かせないのが、Subject 170、マリー の存在です。
マリーはエミリーの一つ前の被験体であり、いわばクローン姉妹にあたります。しかしマリーは実験に「失敗」したとみなされ、安楽死計画(Operation to Eliminate “The Girl”)の対象となりました。地下牢のマリーの人形部屋は、彼女がどのような扱いを受けてきたかを物語る痛ましい空間です。
最終的にマリーは The Girl として変異し、ゲーム中のクリーチャーとして立ちはだかります。エミリーが「救われた側」だとすれば、マリーは「救われなかった側」です。この対比がレクイエムの物語に悲劇性を与えています。
隠しチャレンジ「最後の謎」のヒント文 「2人に声を聴かせて(Let the sweet pair hear the voice)」 は、まさにこの2人を指しています。マリーの人形を所持した状態でエミリーを抱え、主任室のパズルボックスに暗号を入力すると赤ちゃんの笑い声が聞こえる。2人が「声を聴く」ことで初めて完成するこのチャレンジは、救われた者と救われなかった者が再びつながる瞬間として、多くのプレイヤーの心に残る演出となっています。
なお、エミリーやマリー以外にも多数の失敗クローンがARK施設内でモンスター化しており、クローン計画全体の悲惨さが浮き彫りになっています。
【考察】ポストクレジットが示す続編への伏線
Goodエンドのポストクレジットでは、正体不明の兵士たちがBSAAを無力化し、「目的物回収」計画を進行させるシーンが描かれます。
この目的物が何を指すのかはゲーム内で明言されておらず、ファンの間ではElpisのサンプル、ARK施設のデータ、あるいはエミリー自身など複数の説が飛び交っています。X上では「DLC確定か」「RE10への伏線か」といった期待の声が高く、英語圏では関連する理論投稿が8,000いいねを超える反響を見せています。
筆者の考察としては、エミリーがGoodエンドで完全に治癒し普通の生活を送っている描写がある以上、続編で再びエミリーが巻き込まれる展開は十分にあり得ます。Elpis注射を受けた唯一の成功例として、その体内データを狙う勢力が現れる流れは自然です。
ただし現時点では公式の続編情報はなく、ポストクレジットの解釈は完全に推測の域を出ません。今後のカプコンの発表を待ちたいところです。
まとめ
エミリーの正体は、コネクションズとギデオンがElpis解明のために製造した グレース・アシュクロフトのクローン(Subject 171) です。これはゲーム内のファイルと会話で明確に確定しています。
しかし、エミリーの物語は「正体がわかった」では終わりません。スペンサーの贖罪から始まるクローン計画の系譜、マリーとの対比が描く失敗クローンの悲劇、そして生存エンドの整合性やポストクレジットが示す続編の可能性。答えが出ている部分と、まだ答えのない部分が共存するのがエミリーというキャラクターの魅力です。
レクイエムが投げかけた問いの全容が明らかになるのは、おそらくまだ先のことでしょう。

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